秋田大学 STUDENT FIRST 2022
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研究者紹介多彩な研究を行う秋田大学の研究者について、秋田大学ホームページに掲載のインタビュー記事から一部を抜粋して紹介します。 異文化・異言語間コミュニケーションのあり方を知りたい 宮本教授がアフリカ言語に興味を持ったきっかけとなった写真には、手前から「象」と「木」と「山」が写っています。これを日本語で表現すると「私の前に象がいます。象の後ろに木があります。木の後ろに山があります」と、位置関係を「後ろに」と表現します。英語でも同様に「後ろ」を意味する「behind」を使います。日本語と英語では話者の視点は、「私」を離れると象の視点、木の視点に移動します。一方、アフリカのスワヒリ語の表現では「mbele ya(前に)」という前置詞句を使い、「私の前に象がいます。象の前に木があります。木の前に山があります」となります。スワヒリ語は視点が変化しないのです。私から見て前方一直線はすべて「前」であり、日本語や英語のように視点が動かないという言語のあり方に衝撃を受けたと宮本教授は言います。他にも言語の違いで世界の見え方も違う事例があることに興味を持ち、アフリカの言語を研究するきっかけになったそうです。 20年前、ケニアのスバ語は70歳以上のお年寄りしか話せない言語で、消滅の危機に瀕していました。宮本教授は、当時最高齢だった95歳の方にスバ語で昔の話をしてもらい、録音して文字に起こしました。文字化の作業はスバ語と英語がわかる学校の先生に協力してもらい、一つひとつ確認しながら、2,200単語の意味と文法をまとめ、辞書を作り上げました。完成には4~5年の歳月が費やされました。現在は、音声を使わない視覚言語「手話」の研究に取り組んでいるそうです。 宮本教授の研究室の学生の研究内容は、言語学に限りません。海外資源フィールドワークでの調査に基づき、ボツワナの教育制度・人材育成や職業教育を調べた学生もいれば、ツワナ語(ボツワナの公用語)の子どもの名付け方について研究した学生もいます。宮本教授は学生の興味・関心を優先し、自由な学びを尊重しています。大学院国際資源学研究科 資源政策コース 教授 宮本 律子 羽田准教授はとくに満洲国の中国人女性作家「梅娘」の文学を取り上げ、考察しています。日中戦争のさなか、梅娘は日本に滞在し、日本語を通じて近代文学に触れ、日本の進んだ女子教育を目にしました。それによって日本の文化的な発展に魅了される一方、日本の満洲進出や日中戦争に対する反感も抱いていました。「梅娘の作品には、当時の日本を背景とした中国人女性の物語も残されています。主人公は日本の文化的な生活に対して憧れを抱いていますが、日本人が時折見せる、民族差別やエゴイズムに対して批判の目を向けています。そしてそこに生じた葛藤に悩む姿が描かれています。梅娘は、物語の主人公に自身を重ねているように思います」。 昨今の中国は経済的な発展が著しく、日本経済もその影響を大きく受けており、また社会や文化の面でもひろく日中間の交流が盛んになっています。「日本の様々な分野において、中国に通じた人材が求められています。歴史的な文化交流を研究することは、現在の中国と日本の関係を考える上での礎にもなると思います」と羽田准教授は話します。 羽田准教授が高校生の頃、中国の文学や映画に触れ、そのスケールの大きさや独特な世界観と美的感覚に惹かれ、大学進学後は中国語・中国文化を学んだそうです。「若い時代は宝です。感受性が豊かな今のうちに様々な文化に触れてください。それを通じて、この世界は決して自分たちの基準だけでは捉えきれるものではないことを体感してください」これから更に進むであろうグローバル化に向け、国際的な視野を育んでほしいと、羽田准教授は若者たちを激励します。近現代の中国文学から読み解く、日中関係と中国人の思い教育文化学部 地域文化学科 国際文化コース 准教授 羽田 朝子 渡邊教授が所属する秋田大学循環器内科学講座では、3つのチームに別れて研究を行っています。1つ目は心筋虚血チームで、動脈硬化による冠動脈障害を客観的に評価し、それを治療に繋げる臨床研究をしています。2つ目は不整脈チームで、主に心房細動の発症や再発をどのように抑えるか、ということをメインテーマに研究しています。3つ目はエコー(=超音波)検査を用いた心血管病態にかかわる研究です。 心臓や血管の様子はエコーで観察します。カラードプラと呼ばれる方法で、赤と青で色付けけられたエコー画像から、心臓の中で血液の逆流が起こっているかどうかを判断しています。心臓の中では、血流に応じて渦が発生しています。カラードプラ法を応用し、その渦を可視化する技術を「VFM(Vector Flow Mapping)」と呼びます。病気があると渦の形や大きさ、強さなどが変化するそうです。渡邊教授はその渦の出現を見て、病態との関連性を研究しています。渡邊教授は、新しいイメージング技術「SMI(Superb Micro-vascular Imaging)」の臨床への応用にも挑戦しています。この技術を搭載したキャノンの装置では、指の腹の細かな血管まで見ることができます。従来のイメージング技術であるカラードプラでは見えなかった血管壁の栄養血管が、SMIを用いると血管の壁を這うような形でその姿を確認することができます。 渡邊教授は一人の教育者であり、医者であり、研究者でもあり、今は秋田大学医学部附属病院の経営にも携わっています。忙しい合間を縫い、講演活動も行っています。「医師という職種は、患者を治す一人の医者としても、学問を追及する研究者、教育者としても、人の役に立つという意味でも、やりがいのある職業だと日々感じています」新しい画像技術で目に見えない心臓・血管を診る大学院医学系研究科 医学専攻 循環器内科学講座 教授 渡邊 博之 竹内教授が研究しているニューロリハビリテーションは、脳の働きや機能を活かしリハビリテーションに応用する方法です。その中の1つにニューロモデュレーション呼ばれる、頭に電極を付け微弱な電流を与えて刺激することで、脳の興奮性を変化させる方法があります。ニューロモデュレーションを使ったニューロリハビリテーションは既に実用化されており、脳疾患後のリハビリテーションとして応用されています。脳は様々な部位がいろいろな役割を担い、行動や運動学習に結びついています。薬のような投薬治療だと脳全体に作用してしまいますが、特定の場所だけを特異的に変化させたい時に、ニューロモデュレーションは最適な手段と言えます。 ヒトの心に関わるメカニズムで特に有名な「ミラーニューロンシステム」という神経回路は様々な人間関係に影響しています。親と子どもは、お互いの行動をまねることで、お互いの気持ちを分かりあったりすることはよく経験していることと思います。しかしながら虐待を受けた子どもや発達障害の子どもは、相手の気持ちを理解することが苦手なときもあり、ニューロモデュレーション治療を行うことで、相手の気持ちを理解しやすくすることでコミュニケーションをより豊かにできるのではと、竹内教授は考えます。   竹内教授が目指すのは、心のメカニズムをリハビリテーション医療へ応用していくことです。理学療法士が「手足に力を入れて」と言葉だけで伝えるのではなく、脳を刺激できるニューロモデュレーションでヒトの心をサポートしながらリハビリテーションを行うことによって、患者さんの理解がより進みリハビリテーションの効果が高まることを、最終目標にしています。ニューロモデュレーションを用いたリハビリテーションとヒトの心の解明大学院医学系研究科 保健学専攻 理学療法学講座 教授 竹内 直行 熊谷教授は、秋田で毎年大量に排出される「もみ殻」の有効利用に着目して、もみ殻を利用した蓄電デバイスの開発を行っています。パソコンやスマートフォン等の電池に使用されるリチウムイオン電池の中で重要な材料の一つが、マイナス極に使われる炭素です。熊谷教授は、米どころ秋田で大量に排出されている「もみ殻」から、その炭素をつくりだそうとしています。しかも、単なる農業廃棄物の有効利用が目的ではなく、従来のものより高性能な炭素をつくりだすことを真の目的としています。 秋田県では年間12万トンものもみ殻が排出されていますが、その3分の1は明確な利用用途がなく、もみ殻の利用用途が限られていた地域では、もみ殻の処分が切実な問題となりました。お米を包むもみ殻には、20%程度のシリカ(二酸化ケイ素)という成分が含まれています。熊谷教授は、植物有機分とシリカが混じり合うというもみ殻の独特な組成に着目し、もみ殻を蓄電デバイスの電極材料に活用する方法を見出しました。熊谷教授の手により、処分に困っていたもみ殻が貴重な資源になるかもしれません。 「理工学部には、学生の皆さんが学んだ知識を直接社会に還元できるという魅力があります。面白いと感じたものに対する興味を膨らませ、いかに社会に役立つ技術を創り出すことができるのか、また、いかに新しい科学的な発見をするのか、この設問に対して自分なりの解を見つけることが、理工学の醍醐味です。」熊谷教授は、次世代の科学技術を牽引する技術者、研究者の育成に情熱を燃やします。「もみ殻」が電気を蓄える?~秋田に豊富にあるもみ殻を有効利用~大学院理工学研究科 数理・電気電子情報学専攻 電気電子工学コース 教授 熊谷 誠治研究者紹介特設サイト▶詳しく知りたい方は秋田大学ホームページで25

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