神戸大学 大学院経済学研究科・経済学部 2021
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六甲台一口メモ l 経済学部の精神:「真摯・自由・協同」02経済学とは −様々な角度からアプローチ可能な,懐の広い学問−橋野 知子 教授中村 健太 准教授日本経済史イノベーションの経済学 イノベーションの利益はどうすれば確保できるのか,イノベーションの社会へのインパクトはどうやったら測れるのか,私の興味はこういった問題にありますが,もちろん(!)経済学の分析対象はイノベーションにとどまりません。人々はなぜ教育を受けるのか,なぜ少子高齢化や環境問題が起きるのかなど,ニュースや新聞の報道は,ほとんど全てが経済学の分析対象です。その意味では,経済学部は「経済を研究する」のみならず,「問題を分析・解決するための方法論を学ぶ場」だと言ってもいいかもしれません。世の中の本質を見いだすためには,そうした「なぜ?」の背景にある動機(経済学ではインセンティブと言います)について深い理解が必要です。経済学を勉強することで,仕事や生活の上で必要な知識だけでなく,社会全体がどのように動いているのかを理解することができるようになるでしょう。問題を分析・解決するための方法論を学ぶ場 私は,近代日本経済史を専門にしています。日本も含め現在の多くの先進国は,ここ150~200年くらい前に「近代経済成長」あるいは産業革命を経験し,工業化・産業化を達成しました。明治の中頃に始まった日本の近代経済成長の特徴は,西欧諸国と比べて「低水準からの高成長」でした。それを達成した原因や理由は何でしょうか。それを知るには,江戸時代の経済にさかのぼって考えなければなりません。これまでの高校の歴史と違って大学における経済史は,暗記科目とは異なります。もちろん知識は不可欠ですが,経済史は「歴史がなぜほかならぬそのような結果になったのか」という問いに,経済学的な観点から答える学問です。皆さんがその中で考えたことは,現在そして将来起こりうる経済社会の諸問題に対して,大いなる知恵となり,生きる上の指針となるでしょう。経済史を「考えよう」 経済学と一口に言いますが,そのきちんとした定義を与えることは実は簡単ではありません。様々な学者が様々なことを言っていますし,「経済学とは,経済学者がやっていることである」などというジョークも聞かれるくらいです。 定義が難しい理由のヒントになるのが,今日の経済学に大きな足跡を残したケインズの言葉です。「経済学の大家はもろもろの資質のまれなる組み合わせを所持していなければならない。…彼はある程度まで数学者で,歴史家で,政治家で,哲学者でもなければならない。」なるほど,経済学者は色々な別の顔を持っていなければいけないようです。そして,どの顔がより大事かについては研究者間でも意見が分かれるでしょうから,結果として皆が納得のいくような定義に到達しにくいのでしょう。 そう聞くと,皆さんは経済学をやるには他のことをたくさんやらなければならないと思って,尻込みするかもしれません。しかし上のケインズの言葉は,経済学の世界とはややかけ離れて見えるような学問分野の知識も,実は経済学の勉強に役に立つという風にも読むことができます。とりわけ,今まで皆さんが好きだった分野・科目の知識が,経済学の理解を助けることになるかもしれないのです。例えば歴史が好きな人は,過去に起きた経済的発展の理解を通じて現状を読み解こうとするアプローチに共感を覚えるでしょう。また,数学を知っていると,人々は数学の問題を解くがごとく消費などもろもろの行動計画を立てていく,という数理的なアプローチが頭に入りやすくなります。そんな具合です。 経済学は,様々なアプローチが切磋琢磨しながら共存している分野です。だから皆さんは,その中で自分に合ったものを選べばよいのです。経済学自体は一つの険しい山に例えていいかもしれませんが,ならばその裾野は意外に広いというべきです。どうか皆さんには,自分なりのやり方で,大学在学中をかけて登る価値のあるこの山に挑んでほしいと思います。

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