神戸大学 大学院経済学研究科・経済学部 2024
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 経済学と一口に言いますが,そのきちんとした定義を与えることは実は簡単ではありません。様々な学者が様々なことを言っていますし,「経済学とは,経済学者がやっていることである」などというジョークも聞かれるくらいです。 定義が難しい理由のヒントになるのが,今日の経済学に大きな足跡を残したケインズの言葉です。「経済学の大家はもろもろの資質のまれなる組み合わせを所持していなければならない。…彼はある程度まで数学者で,歴史家で,政治家で,哲学者でもなければならない。」なるほど,経済学者は色々な別の顔を持っていなければいけないようです。そして,どの顔がより大事かについては研究者間でも意見が分かれるでしょうから,結果として皆が納得のいくような定義に到達しにくいのでしょう。 そう聞くと,皆さんは経済学をやるには他のことをたくさんやらなければならないと思って,尻込みするかもしれません。しかし上のケインズの言葉は,経済学の世界とはややかけ離れて見えるような学問分野の知識も,実は経済学の勉強に役に立つという風にも読むことができます。とりわけ,今まで皆さんが好きだった分野・科目の知識が,経済学の理解を助けることになるかもしれないのです。例えば歴史が好きな人は,過去に起きた経済的発展の理解を通じて現状を読み解こうとするアプローチに共感を覚えるでしょう。また,数学を知っていると,人々は数学の問題を解くがごとく消費などもろもろの行動計画を立てていく,という数理的なアプローチが頭に入りやすくなります。そんな具合です。 経済学は,様々なアプローチが切磋琢磨しながら共存している分野です。だから皆さんは,その中で自分に合ったものを選べばよいのです。経済学自体は一つの険しい山に例えていいかもしれませんが,ならばその裾野は意外に広いというべきです。どうか皆さんには,自分なりのやり方で,大学在学中をかけて登る価値のあるこの山に挑んでほしいと思います。綿貫 友子 教授日本経済史茂木 快治 准教授計量経済学経済史を知るということ 経済史を構成する要素が時代,地域,事項ともに無数にあるなかで,私は日本の14世紀後期から17世紀にかけての流通を主に研究しています。経済に関しては,近代資本主義社会の成立期とされる17世紀後期以降,ともすれば実生活との関わりから直近の動向に関心が向けられがちですが,現在は過去からの長大な時とそこでの人々の活動を集積し,順調な発展ばかりではない停滞や退行の時期も経た先に位置しています。その間の人々と経済の関わりを通して,自分の拠って立つところがどのような成り立ちで今日に至っているのかを知ることは,足場を確かに,立ち位置を定めて広く社会,世界へと歩みを進めるうえできわめて重要な意味をもつものと思います。計量経済学は,経済分析を支えるエンジニアリング 計量経済学とは,端的に言えば「経済データ用にカスタマイズされた統計学」のことです。統計学とはデータを収集し分析する学問であり,計量経済学はその中でも経済データに特化しています。経済データには多数の特筆すべき性質が存在します。一例として,中央銀行による政策金利の変更が物価水準に影響を与える一方,物価の動向が中央銀行の意思決定を左右するといった相互依存関係が挙げられます。経済データの特性と整合的な計量分析を行えば,現実経済のメカニズムに対する理解も深まり,家計,企業,政策当局などの意思決定も効率化されます。経済データ専用の分析手法を開発し提供する計量経済学は,まさに経済分析を支えるエンジニアリングといえるでしょう。皆様もぜひ神戸大学大学院経済学研究科・経済学部で計量経済学の面白さと大切さを学んでください。05アプローチ可能な,懐の広い学問−経済学とは −様々な角度から

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