高知工科大学 2024
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KEYWORDCutting Edge 0310システム工学群景観デザイン研究室重山 陽一郎 教授【専門分野】 景観デザインKUT WAY 2024 土木構造物のデザイナーとして全国各地で活動する重山教授。例えば、宍道湖に沈む夕日を眺める名所として知られる島根県松江市の岸公園。重山教授はこの公園の設計に携わり、国、県、市の3つの主体が絡む場所を一体的な空間として整備し、市民や観光客に心地よい水辺を開放した。「周りの景観を考慮したうえでどうするか、というのが土木のデザインの肝心なところ。岸公園では建物、土木、水面、山並み、夕日という広範囲のものをひとつのまとまった風景にすることができました」 高知県では南海トラフ大地震に備え、海岸保全施設の整備が進められている。その中で、重山教授は、高知市の浦戸湾口の東側に位置する臨海公園に建設される津波防護堤防の設計を担当している。臨海公園はキャンプ場と海水浴場の間にあり、来訪者の往来も多い。そのため、「人々の導線を分断せず、壁を超えて自由に行き来できる」ことを設計のポイントとし、公園と一体的な設計を行うことで、単なる堤防ではなく、日常的に利用される構造物を提案している。こうした考えの背景には、東北の復興事例において、非常に圧迫感のある津波防護堤防が数多く造られていることがあった。重山教授は、直立型の壁式堤防と「高い丘」のような緩い傾斜の盛り土式堤防を組み合わせ、壁式堤防の前後に土を盛って壁面を隠し、堤防よりも高い樹木を植えることで、高さ方向からも圧迫感の軽減を図った。壁式堤防の上を緩やかな曲線を描く散策路として利用できるようにし、さらには壁式堤防を越える階段部分に展望台を設け、公園全体を見渡せるようにした。「これがモデルケースとなって、津波防護堤防に対する世の中の考え方が変わるといいなと思っています」 すぐ後ろに建つのは島根県立美術館。岸公園が美術館と宍道湖をつなぐ空間となるよう、緩やかな芝生の土手を設けることで、広がった湖を身近に感じさせる造りとした。宍道湖を眺める美術館の庭のようなデザインに、治水機能を一致させた数々の工夫が見られ、土木デザインの理想的な形と言えよう。その地に最適な景観から見出した新たな津波防護堤防の形望スペースから眺めた時の煩雑さを軽減させ、エレベーター上屋と水位計室上屋を同一形状とすることで、シンメトリーなシルエットにしたほか、天端道路の車両や歩行者用の柵などを隠すプレキャスト壁高欄を考案し、シンプルで連続性のある天端空間のデザインを実現した。ダム堤体下流側のプレキャスト壁高欄には、クライミング用の吊り金具を設置し、日本で初となる堤体下流面を利用したクライミング施設を整備し、市民に開かれたダム施設として活用されている。「土木と建築が協力し合うことで実現した空間です」と重山教授。土木と建築がともによりよい空間をつくる。それは、土木と建築を一体的に学ぶ本学の建築・都市デザイン専攻がめざすところでもある。土木デザイン公共の機能を果たすことが大前提とされる土木構造物。時代とともに生活にゆとりや豊かさを求める流れが生まれたことで、デザインや景観も土木構造物の重要な性能としてとらえられるようになってきた。デザインに参画した「横瀬川ダム」が土木学会デザイン賞2022の奨励賞を受賞 重山教授が事業景観アドバイザーおよび全般のデザイン指導として携わった高知県宿毛市にある「横瀬川ダム」が、公益社団法人土木学会 景観・デザイン委員会が主催する土木学会デザイン賞2022において奨励賞を受賞した。横瀬川ダムは、四万十川支流中筋川流域の治水・利水・環境に貢献する多目的ダムで、ダムの下流には地元の信仰対象であるトドロの滝があり、周辺には絶滅危惧種「ヤイロチョウ」が生息する天然林が分布。これらを保護するために地形改編を最小限に抑える必要があった。重山教授は、堤趾導流壁が階段状に立ち並ぶ複雑な形状を整理し、左右岸の眺土木と建築の一体化で生まれた唯一無二の景観デザイン土木に建築、デザインを組み合わせ、長く愛される景観をつくる

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