高知工科大学 2024
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KEYWORDCutting Edge 0411理工学群光機能化学研究室伊藤 亮孝 准教授【専門分野】 光化学、錯体化学、分析化学、物理化学【専門分野】 光化学、錯体化学、分析化学、物理化学 物質の中には、光を吸収すると、物質内の電子の空間分布が大きく変化する「分子内電荷移動」という現象が起こるものが存在する。これらの物質は、有機ELを始めとするエレクトロニクス素子のほか、色素増感太陽電池や人工光合成といった光エネルギーを電気・化学エネルギーに変換する光化学デバイスへの応用が期待されている。 伊藤准教授は、この分子内電荷移動の現象に着目し、これまでに様々な骨格や構造をもつ光機能材料を創出し、発光色などの性質を変化させるだけでなく、そのような変化が起こるメカニズムについて解明してきた。有機化合物・有機金属化合物・配位化合物を問わず対象として取り上げ、緻密な分子設計に基づいた系統的な物質の合成と、それらの物性に対する徹底的な理解によって光機能性を自在に制御する手法を確立していく点が、伊藤准教授の研究の特徴だ。 光化学が対象とする光の吸収や放出の変化は、高感度な検出が可能であると同時に、私たちの目で直接観測できることから、物質や環境を検出するツールへの活用も進められている。伊藤准教授はこのような光の特徴を生かし、温度や極性などの周辺環境や共存する物質の存在に応答し、光の吸収や発光の挙動が変化する「環境応答性化合物」の開発に力を入れてきた。「分子系材料は適切な分子設計によって、どのような波長の光を吸収・放出するかだけでなく、どのような環境に応答するかという性質を制御することも可能です。それぞれの分子の性質を理解し、細やかな設計を行うことで、発光色を大きく変化させることにも成功してきました。さらには、分子系材料が周辺環境から受ける効果を利用することで、新たな光機能性を引き出すこともできると考えています」Kochi University of Technology光と物質の間にはたらく相互作用を取り扱う化学の一領域。物質による光の吸収や放出、光吸収の後に起こる反応についてよく知ることで、色素としてはもちろん、太陽電池や人工的な光合成反応といった吸収した光エネルギーを別種のエネルギーへと変換するシステムなどで大いに活躍できる材料を創り出すことができる。これまでに合成してきた試料の発光(紫外光照射下のもの)「新たな手法では、色素とほぼ同じ量の反応剤で70%以上の反応が進むようになりました。このことは、光-エネルギー変換の効率化において大きな進歩です」 ナノイオンキャリアにイオン性物質を担持するという極めて簡便な手法によって、光吸収から駆動する反応の大幅な効率向上を実現した。伊藤准教授の新たな着想から生まれた高効率な光反応系は、人工光合成をはじめとする様々な色素増感型の反応への適用が期待できるだろう。それだけでなく、この手法は反応剤の種類や濃度などの条件を自在に変更できる点もポイントだ。イオン性物質を扱うものであればどんな反応でも効率向上が可能であることから、多様な光機能性の発現をめざすうえで非常に有用な材料になり得るといえる。「ナノイオンキャリアを構成する骨格や、内部に担持する材料の種類や量を変化させることで、両者の間にはたらく相互作用を制御し、光機能性を最大限に引き出す新たな光システムの構築をめざします」光化学ナノイオンキャリアを用いた手法で光誘起反応の効率向上を実現 エネルギーの枯渇が危ぶまれる現代において、光化学は様々な分野から期待が寄せられている。光エネルギーを利用して化学反応を起こす「人工光合成」システムもそのひとつだ。人工光合成では、光増感剤(色素)が光を吸収し、高エネルギー(励起)状態になることで起こる電子移動を利用して、水を水素と酸素に分解したり、二酸化炭素を原料として有用な物質を製造するシステムなどが提案されている。そのシステムの機能向上には、光吸収によって駆動するエネルギーの伝搬や電子の移動といった多段階の反応過程をそれぞれ効率化することが重要になる。「反応過程をミクロに見ると、分子同士が衝突することで反応が起こり、衝突する確率によって反応の度合いは変化する」という。 一般的に用いられる均一な溶液では、高い反応効率を得るために、色素に対して100〜1万倍という非常に高濃度の反応剤が必要であるなど課題が多い。そこで、伊藤准教授らは、より簡便な手法で反応効率を高めるために、溶液ではなく“固相媒体”である微小な高分子の粒にイオン交換基を導入した「ナノイオンキャリア」に着目し、研究を進めている。「ナノイオンキャリアは、微小な粒の中にイオン性物質を素早く取り込み濃縮できるので、少量の反応剤でも効率よく反応が起こるのではないかと考えました」 合成した直径数百nmのナノイオンキャリアの中に、ルテニウム錯体と、これに反応して励起状態からエネルギーを受け渡すことができる反応剤を混合して担持した試料を作成し、実験を行った結果、予想通り、反応効率が飛躍的に向上することを見出した。ナノイオンキャリアと分子系材料の複合化で新たな光機能性を引き出す場を構築多様な環境に応答する光機能材料を創出

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