高知工科大学 2024
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KEYWORDCutting Edge 0613経済・マネジメント学群進化・社会心理学研究室三船 恒裕 教授【専門分野】 社会心理学、進化心理学 戦争のように人間は集団で他の集団と争うとき、どのような心理が働くのだろうか。人間には他の集団を攻撃する「本能」があるという主張がよく見られるが、本当にそうなのか。 人間は、あらゆる場面で他者を自分と同じ集団か違う集団の人かで区別する。集団内では協力的な関係を築く一方、集団間では争いや対立が生じてきた。こうした、内集団の人を外集団の人よりも優遇する人間特有の心理的傾向を「内集団バイアス」と呼ぶ。自分と同じグループに所属する内輪の人を外部の人よりも優遇してしまう内集団バイアスは経済学的にも生物学的にも■に包まれた行動のひとつで、経済学や生物学の「自己利益の最大化」という理論との間に矛盾が生じる。三船教授は、この内集団バイアスが生じる心理メカニズムを解明しようと、これまで心理学では取り入れられてこなかった行動経済学の手法を用いて実験・研究を行っている。   これまでの研究では、「クレーとカンディンスキーのどちらが描いた絵を好むか」といった些細な基準で分けられただけの実験室内でのみ存在する「最小条件集団」においても内集団バイアスが生じることが明らかにされている。さらに近年の実験研究では、集団状況において外集団への攻撃性は見られず、内集団への協力性しか現れてこないという結果も数多く報告されている。では、なぜ人間はバイアスを示すのだろうか。三船教授は、内集団への協力性について、内輪に協力しなくても内輪にバレない状況では協力しようとする意識は働かず「お互いに相手が内集団だとわかっている場合においてのみ高まる」という結果を実験から見出し、「いつか良いことが返ってくる」というお互い様の関係性が内集団の協力を生じさせたという見解を示した。 さらに、相手がこちらの属する集団を知らない場合Kochi University of Technology自分が所属する集団(内集団)の人に対して、所属しない集団(外集団)の人よりも、肯定的に評価したり、好意的な態度を示したりする心理的傾向のこと。「内集団ひいき」とも呼ばれ、社会心理学において様々な研究がなされてきた。でも、パソコンのデスクトップ画面に抽象的な目の絵が表示されているだけで、内集団への協力性が高まるという興味深い結果も明らかにした。「人間は内輪で助け合うのが当たり前で、助け合わなければ痛い目に合うということを直感的に理解しています。だから行動を監視しているような目の絵があるだけで、内輪に協力するという意識が働くのでしょう」で分けられただけの最小条件集団に、どんな条件が加わることで外集団への攻撃性が生じるのかを確かめたいと考えた。そこで、新たに開発した経済実験ゲームの結果、集団間で攻撃力に大きく差がある場合、攻撃力の弱い方が強い相手の攻撃を止めようと躊躇なく攻撃する傾向が現れることを確認。さらに、この攻撃力の非対称性という要因がもたらした攻撃の促進効果が、外集団に対して特に生じるのかを実験で検証したところ、相手の方が攻撃力が大きい場合に限って、内集団よりも外集団に対してより攻撃を強める結果となった。この実験結果は、世界で初めて最小条件集団における外集団への攻撃性を示した事例だ。「私が引き当てたこの結果が、解明への手がかりのひとつになるだろうと思っています。さらに同様の実験を重ねることで確証を得て、『世界で初めて外集団への攻撃性の心理メカニズムを明らかにした』と胸を張って言いたいですね」  内集団バイアス「外集団への攻撃性」は人間の本能なのか 人間が内集団への協力性を持つことは示されてきたが、■として残るのは、外集団に対する攻撃性だ。外集団に対する攻撃性がなぜ、どのようにして生じるのか、特にその最も根本的な心理メカニズムについてはほとんど明らかにされていない。 三船教授は、「外集団への攻撃性を人間は持っているのか」という根本的な問いについて、相手が攻撃してくる前に攻撃するという先制攻撃行動を測定する経済実験ゲームから明らかにしようと試みた。絵の好みだけで分けられた最小条件集団を用いてこのゲームを行い、内集団バイアスを測定した結果、内集団が相手の場合と外集団が相手の場合で、攻撃率に差が見られず、外集団に対して顕著に攻撃的になるという現象はほとんど見られないという結果を得た。戦争や差別という事例を思い浮かべると、人間は外集団に対して何の理由もなく攻撃的になると思われがちだが、実験の結果はそうした見方を支持していない。 では、人間の外集団への攻撃性はいかなる条件において生じるのだろうか。三船教授は、絵の好みだけ「争い」をもたらす人間の心理メカニズムを解明したい謎に包まれた「協力」と「攻撃」の基礎的な心理の一端を明らかに

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