京都大学 大学案内 2024
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「ミクロ経済学」は市場のメカニズムに基づき、経済行動を分析する学問です。ミクロ経済学の起源は19世紀から20世紀にかけて登場した最大化原理を基礎におく完全競争モデルです。しかし現代経済は巨大企業の寡占化の様相が強く、完全競争モデルの虚構性が指摘されています。そこで登場したのが、将棋などにたとえて意思を戦略的に決定していく「ゲーム理論」です。現代ミクロ経済学は、このゲーム理論を中心に据えることで、医療・福祉経済学、マーケティング経済学、情報・通信経済学、都市・交通経済学、企業・組織経済学、環境経済学など、最先端をいく応用経済学の基礎ツールとなっています。「経営学」は幅広く、経営現象を研究する学問です。「経営」とはある目的を達成しようとする事業について、それを計画・指揮・管理する活動です。その対象は従来、民間企業が中心でしたが、近年は病院や政府、地方自治体やNPOなど、経営の質が問われる社会的事業体にも広がっています。また、企業においても自社の利潤追求だけでなく、ステークホルダーとよばれる多くの人びとに利益をもたらすことが求められ、その経営システムは複雑化する一方です。その最適解を研究する経営学の理論体系も複雑化しています。このように実践の場でも、理論研究の場でも、難問・難題が山積していますが、そこに〈経営する〉醍醐味があるのも事実です。統計学はかつて、国家為政者へ行政に必要な資料を提供するためにあり、その目的は人口、所得、耕地面積等の数値を収集・整理し、国力を測ることでした。ただし、現在はデータの幅も広くなり、行政はもとより商業、あるいは株式や為替といった投資の判断材料になるなど、さまざまな場で応用されています。これらをふまえ、「統計学1」の授業では、記述統計学と数理統計学によって成り立つ2領域を主に学びます。記述統計学では物価指数など、実務で使用することの多いツールを学習します。数理統計学ではデータに関する多様な推定、仮説に関する検証を数学的に学びます。「マクロ経済学」は経済活動を大きな視点から分析する経済学の1分野です。その大きな視点とは、分析対象が特定の個人、企業、産業の経済活動ではなく、国家経済や世界経済を見通すことを意味しています。そこで課題となるのは、なぜ経済は好況と不況を繰り返すのか、政府は景気の変動を抑制するためにどのような政策を採ればよいのか、なぜ先進国は産業構造の転換を果たし所得の増大を達成できたのか、それに対して多くの発展途上国が農業中心の経済構造から脱却できず低所得の状態にあるのはなぜなのか、等々の疑問です。マクロ経済学が取り組むのは、これらの疑問に正確な答えを与えることにほかなりません。「会計学」は〈事業の言語〉とよばれる会計を対象に発達した学問です。また、会計学は事業体の現象を正確に理解するとともに、望ましい会計について考える学問でもあります。こうした会計は、社会会計・国民経済計算などの「マクロ会計」、家計・企業会計・非営利法人会計・公会計などの「ミクロ会計」、2つに大別されます。さらに会計情報の利用者ごと、企業外部の株主や債権者などに対する「財務会計」、経営者などのための「管理会計」、2つに分類されており、それぞれに対応するため、財務会計学と管理会計学、2つの学問分野が発達しています。人間の社会を扱う以上、経済学は経済的・社会的問題の解決という目的意識をつねにもつべきであり、その概念は「政策関心」と言い換えられます。「現代経済事情」で講義する経済政策論、財政学、金融論、社会政策論、世界経済論、公共経済学などには「現代の社会問題や経済問題を素材に考える」という共通項があります。また、経済問題に対しては通常、さまざまなアプローチがあり、複雑な社会現象そのものを理解するには、総合的・多面的な分析視角が必要です。「現代経済事情」の諸講義に共通する狙いは、現実の経済問題などへの感受性と複眼的な視点を養うことにあります。経済学と経営学を横断して学ぶために双方の基礎と土台を固める京都大学の経済学部は、かつての経済学科と経営学科を統合した経済経営学科の1学科制であり、社会で密に関連しあう両学問を横断して学びます。ただし、それには経済学と経営学、双方の基礎を固める必要があり、1年次に9つの入門科目を学びます(以下は各科目の学問概説)。「社会経済学」はスミス、リカード、マルクスなど、古典派と呼ばれる人たちの理論の総称でした。彼等は経済分野だけでなく、政治や文化などの分野にも広がる社会的視座をもつと共に、数世紀におよぶ歴史を考察する長期的視野をもっていました。しかし20世紀に入ると大量生産技術の成立といった技術面の変化、巨大企業の出現といった組織面の変化により、古典派経済理論の有効性は低下しました。こうした資本主義の変化をふまえ、新たな理論を創出したのがケインズとカレツキです。現代の社会経済学は、古典派経済学者たちの社会的歴史的視点とケインズおよびカレツキの理論を結合し、現代資本主義の構造や制度を分析していきます。「情報処理」は人間の意思決定活動であり、社会活動そのものです。また、インターネットやコンピュータなどの情報通信技術は、そうした活動を支える必要不可欠なツールです。さらに情報通信技術の急速な発展は社会を大きく変え、情報通信技術がなくては(知らなくては)企業の経営は成り立ちません。授業としての「情報処理」は経済学や経営学を学び、理解・分析するためだけに学ぶのではありません。コンピュータシミュレーションによって社会や組織を解析したり、あるいは未来を予測したり、経済学や経営学の根幹を見つめながら、通信をふくむ情報処理技術を習得していきます。「温故知新」という言葉を知っていますか? そこには昔のことから新しいことを知るという意味があり、「経済史・思想史」はその意図をもつ学問です。また、経済史と思想史、ふたつの分野を並行して学ぶ意味は、現在の経済社会を歴史的に眺めることにあり、経済や社会に関する「忘れ去られた課題」を再発見し、あわせて「新しい課題」や「経済学のあり方」を構想していきます。たとえば、ある国が経済大国になる過程の分析からその秘訣や条件と問題点を学んだり、ある企業の発展・没落から経営とは何かを考えてみたり、人間が集団形成するときの諸問題を把握することで理想社会について提言したり、そうしたことに取り組みながら歴史的な発想法を身につけ、当然と思っていた日常から〈新たな可能性〉を発見する視座を養います。24KYOTO UNIVERSITY GUIDE BOOK 20249つの入門科目ミクロ経済学経営学統計学1学びの紹介マクロ経済学会計学現代経済事情社会経済学情報処理経済史・思想史

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