京都大学 大学案内 2024
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Tomoko Sakai人文科学研究所准教授さかい・ともこ 北海道札幌北高等学校出身。ブリストル大学社会学部博士課程修了。ブリストル大学Ph.D.。大阪大学グローバルCOE特任助教、東北学院大学教養学部准教授、神戸大学大学院人文学研究科准教授などを経て、2022年から現職。専門は文化・社会人類学。2023年には、第15回京都大学たちばな賞にて優秀女性研究者賞奨励賞を授賞。単著に『紛争という日常――北アイルランドにおける記憶と語りの民族誌』(人文書院、2015)。アルピジェラと呼ばれるパッチワーク。これはイングランドの作家の作品で、被災地・福島での人形制作の様子を表現している。もとは軍事独裁政権下のチリの女性たちの技法で、現在はラテンアメリカの他地域や北アイルランドにも広まっている。人々の体験を伝えるものとして、展覧会での紹介活動にも取り組んでいる。4KYOTO UNIVERSITY GUIDE BOOK 2024 私が高校生のころは地球環境問題が大々的に取り上げられはじめた時期。環境問題だけでなく、民話や民具などの民俗文化にも興味があったので、文理融合で学べる京大の農学部に進学しました。大学の授業は高校までとまったく違い、中には2時間ずっと1匹のサルを観察しつづけるという授業も(笑)。「そうか、大学ってこういう場所なんだ」と感動したのを覚えています。研究テーマを模索するなかで農史を専門とする恩師に出会い、食糧や環境の問題を歴史的な視点から分析する発想に大きな影響を受けました。現在の人類学的な研究につながっています。 私が注目しているのは、「危機のなかの日常」。北アイルランドでの調査では、地元の人々への聞き取り調査から紛争体験に迫りました。北アイルランドは20世紀後半に民族対立を発端とする数十年におよぶ紛争を経験した地域。それでも現地住民の話から浮かび上がったのは、お茶やお酒を飲んでおしゃべりしたり、笑ったりする姿でした。民話を題材にしながらイギリス軍の噂話をさかんにしていたのも印象的で、逼迫した状況下の日常にこそ、光をあてたいと考えました。 飲食や娯楽は生活には欠かせないもの。紛争下でも、子どもはいつも遊んでいるし、大人も深刻な事柄に必死に対処するかたわら、何かしらの楽しみを見つけよう、作り出そうとします。福島県の放射能汚染の危険がある地域での調査でも、似た側面がありました。文化や状況は違えど、日常の世界に一歩踏み込めば相通じる営みが見えてきます。一見すると些細なことですが、人々の生活に目を向けることでこそ、危機における人間の体験に迫ることができるのです。 現在は「汚さ」という具体的な感覚を手掛かりに倫理・道徳的な問題にも取り組むほか、福島での調査をきっかけに思いがけず環境問題への関心が甦っています。これから大学生になるみなさんも、そのときその場で感じた感情を大切にどんどん挑戦してほしい。コストパフォーマンスが叫ばれる世の中ですが、大学でも効率の外にある出会いを大事にして、まだ見ぬ可能性に飛び込んでください。酒井朋子寄■添■■■「危機■■■■日常」■■■■■営■■■■、光■■■■意義■■■

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