京都大学 大学案内 2024
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Senjo Shimizu理学研究科教授しみず・せんじょう 富山県立砺波高等学校出身。筑波大学大学院数学研究科博士課程修了。博士(理学)。静岡大学工学部准教授、同大学理学部教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て、2023年から現職。専門は偏微分方程式論。2021年6月から2023年5月まで日本数学会理事長を務める。2014年にドイツのフンボルト財団のFriedrich Wilhelm Bessel Research Awardsを受賞。副賞としてドイツ・Halle大学のJan Prüss教授の元に半年間研究留学できたことは格別の機会となった。5 数学は長い歴史と豊かな広がりをもつ学問であり、抽象性・普遍性・厳密性に基づきさまざまな課題を数学的概念として定式化し解析します。物理学、化学、生物学、地球科学の自然界の法則の理解に限らず、医学、工学、通信・情報、計算機、画像、そして経済学、金融、社会科学に応用され人類社会の発展に大きく貢献してきました。 小学生のころから、算数の問題が理解できると特別な喜びを感じたものです。同じ喜びはほかのどの科目でも味わえませんでした。中学・高校と数学の難易度があがるほど、喜びは大きくなり、大学では数学を学びたいと考えました。しかし、当時は「女性は理系に向かない」という偏見が根強く、数学科への進学を賛成してくれる人はいませんでした。残念ながら数学科への進学はかないませんでしたが、大学では選択科目で数学の講義を受講するなど、置かれた環境で何ができるか考えました。大学時代は、「どうすれば、自由に数学ができるのか」を探しつづけた時間。修士課程から数学を専門に学ぶことができるようになり、数学に没頭できる環境に身を置けるようになった嬉しさは忘れられません。 現在は偏微分方程式を専門に研究しています。Navier-Stokes方程式で記述される流体の自由境界問題や関連する問題の数学的に厳密な解析に取り組んでいます。自由境界を固定境界に変換することで方程式の非線形性が強くなり準線形とよばれる方程式となりますが、線形問題の最大正則性定理が威力を発揮し準線形方程式を解くことができます。尺度不変性を保つ関数空間で解を捉えるとともに境界の形状の解析を目指しています。かつては「就職で苦労する」と言われていた数学の世界ですが、現在は研究と社会実装との架け橋として期待が高まっています。とくに米国のGAFAやBig Techに象徴されるように、海外のIT業界では高度な数学の素養をもった人材の採用がさかんです。日本でもこれからは量子コンピュータの計算や、医学分野のシミュレーションなど、数学の知見をいかして活躍できる場はますます拡がっていくことと思われます。 数学で成果をあげるには、厳しい部分もあります。このホワイトボードに書かれている最大正則性定理を得るために10年以上の年月を要しました。なかには、7年間考えたにもかかわらず、答えが出ずに諦めた問題もあります。それでも数学を考えることの喜びが困難にまさります。みなさんにも大切にしてほしいのは、「自分がどう思い、どう考えるか」ということです。自分で「これだ!」と思うものがあれば、たとえ周りから賛成されなくても、思いを貫いて進んでほしい。その先にきっと未来が拓けます。特別■喜■■教■■■■■数学譲■■■思■■進路■■■■清水扇丈

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