マクロ経済学は経済全体を分析する学問です。GDP、インフレ率、失業率など、経済全体で集計される変数を分析対象とします。そのような変数の決定には非常に多くの家計・企業・公的部門の活動が関わってくるので、背後にあるメカニズムを解明することは容易ではありませんが、経済学理論およびデータを駆使してそのメカニズムを解明し、得られた結果に基づいて有効な政策を提示することがマクロ経済学の主要な目標です。マクロ経済学を学ぶことで、経済成長をいかにして実現するか、短期的な経済の変動をいかにして抑制するか、経済格差の拡大にどのように対処するか、といった課題にアプローチするための一つの枠組みを手にすることができます。「会計学」は〈事業の言語〉とよばれる会計を対象に発達した学問です。また、会計学は事業体の現象を正確に理解するとともに、望ましい会計について考える学問でもあります。こうした会計は、社会会計・国民経済計算などの「マクロ会計」、家計・企業会計・非営利法人会計・公会計などの「ミクロ会計」、2つに大別されます。さらに会計情報の利用者ごと、企業外部の株主や債権者などに対する「財務会計」、経営者などのための「管理会計」、2つに分類されており、それぞれに対応するため、財務会計学と管理会計学、2つの学問分野が発達しています。「現代経済事情」は、「入門」科目のひとつですが、経済学の特定の分野の「基礎」を学ぶわけではありません。この科目では、今日的意義をもつ現実の社会・経済問題を素材にとりあげ、入門レベルながらも、総合的・多角的な視角からの分析を試みます。問題関心を育み、社会科学的な感性と関心(=「驚嘆する能力」)を養うこと、これがこの科目の狙いです。「現代経済事情」で講義する経済政策論、財政政策論、産業政策論、食農政策論、環境政策論などには、「現代の社会問題や経済問題を素材に考える」という共通項があります。現実の経済問題などへの感受性と複眼的な視点を養いつつ、総合的・多面的に分析する視角の習得を目指します。「社会経済学」はスミス、リカード、マルクスなど、古典派と呼ばれる人たちの理論の総称でした。彼等は経済分野だけでなく、政治や文化などの分野にも広がる社会的視座をもつと共に、数世紀におよぶ歴史を考察する長期的視野をもっていました。しかし20世紀に入ると大量生産技術の成立といった技術面の変化、巨大企業の出現といった組織面の変化により、古典派経済理論の有効性は低下しました。こうした資本主義の変化をふまえ、新たな理論を創出したのがケインズとカレツキです。現代の社会経済学は、古典派経済学者たちの社会的歴史的視点とケインズおよびカレツキの理論を結合し、現代資本主義の構造や制度を分析していきます。コンピュータやインターネット、人工知能(AI)などの情報処理・情報通信技術は著しい発達を遂げて、社会のあらゆるところに関わるようになりました。しかも今なお進歩を続けていて、日常生活から企業・公共団体・国家にいたるまで社会の姿を大きく変えてきています。このような社会の一員として適切に振る舞い、活動を行っていくためには、情報とその技術について理解を深めるとともに、それらが社会にどのような影響を与えているかを認識することが重要です。「情報処理入門」では、情報の基礎的なリテラシー(情報に対する理解と活用の能力)とともに、経済学部での学びに求められる情報科学の基礎を習得することを目指します。この科目は、昔のことから新しいことを知る「温故知新」の意図を持ちます。また、経済史と思想史という二つの分野を並行して学ぶ意味は、現在の経済社会を歴史的に眺めることにあり、経済や社会に関する「忘れられた課題」を再発見し、あわせて「新しい課題」や「経済学のあり方」を構想します。たとえば、ある国の経済大国化の過程や特定の企業や産業の盛衰の分析からその条件や問題点を学んだり、人間が集団形成するときの経済問題や社会問題を把握することで理想社会を構想します。これらの作業に取り組みながら、歴史的な発想法を身につけ、当然と思っていた日常から〈新たな可能性〉を発見する視座を養います。「ミクロ経済学」は、消費者個人や個別企業、その集合体としての市場を分析します。消費者の財に対する個人的評価と市場における価格との関係を通して、資源の効率的分配や社会全体の厚生度を考察し、その厚生基準をもとに、税制等の価格政策が与える影響や、公害を生む生産への対策、国防等の公共的な財の生産などについて検討します。一方で、寡占など、少数市場参加者 の 戦 略 的 相 互 依 存 関 係を分 析 するために「ゲーム理論」という枠組みも提供しています。契約者の真の健康状態を知らない場合、保険会社がどのような契約を提供すべきかなど、相手方の情報が不完備な場合の契約設計などにも「ゲーム理論」は応用されています。経営学とは、「人」「組織」「社会」の関係性を「経営」という視点から探求する学問です。企業が直面する課題には、デジタル化、グローバル化、気候変動への対応があり、それに伴う意思決定を学びます。さらに、経営者は環境保護か利潤追求か、成長か効率か、既存技術の深化か新技術の探索か、海外進出か国内需要の開拓か、伝統かデジタル化かといった相反する選択に直面し、そのバランスを取ることが求められます。経営には無数の解があり、そのプロセスにはデータ、論理、実践が不可欠です。現代の経営は、理想と現実、短期と長期、個別と全体を調整する難しい判断が常に必要です。経営学は、この複雑な状況で最適な選択をする力を養います。「統計学」はデータを収集・分析・解釈するための学問です。統計学のアプローチは、大学や公的機関における研究活動からビジネスの現場まで、広く活用されています。例えば、少人数クラス教育のような国・地方自治体等が取り組む政策の評価、物価上昇率のような経済・物価情勢の予測、ウェブ広告のようなビジネスにおける施策の効果検証といった現実社会の課題に迫るためのアプローチを統計学は提供しています。「統計学1」をはじめとする経済学部のデータサイエンス科目では、そのようなデータ分析事例を学ぶとともに、データ分析を実践するために役立つ統計学のアプローチとプログラミング技術の習得を目指した体系的な学習を行います。京都大学の経済学部は、かつての経済学科と経営学科を統合した経済経営学科の1学科制であり、社会で密に関連しあう両学問を横断して学びます。ただし、それには経済学と経営学、双方の基礎を固める必要があり、1年次に9つの入門科目を学びます(以下は各科目の学問概説)。経済学と経営学を横断して学ぶために双方の基礎と土台を固めるマクロ経済学入門会計学入門現代経済事情社会経済学入門情報処理入門経済史・思想史入門9つの入門科目ミクロ経済学入門経営学入門統計学132学びの紹介
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