名古屋大学 大学案内 2024
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「私たちの日常生活においても『政治・民主主義』は必要なもの。見方自体を変えてみてほしい。」家族・ノンヒューマン・資本主義。異なる視点から「民主主義」のあり方を捉え直す07GUIDE TO NAGOYA UNIVERSITY 2024ResearcherTAMURA Tetsuki大学院法学研究科 総合法政専攻 基幹法・政治学 教授PROFILE専門は政治学。名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。名古屋大学ジェンダーダイバーシティセンター副センター長を兼任。著作に『熟議民主主義の困難』(ナカニシヤ出版、2017年)、『政治学』(共著)(勁草書房、2020年)など。自治体の男女共同参画関係の審議会等の委員も務めている。「民主主義=国家」の再検討 政治学を専門とし、民主主義についての研究を行っています。一般に「政治・民主主義」と聞くと、多数決や選挙を思い浮かべがちですし、また政治学の研究者の間でも民主主義とは国家レベルのものとして捉える人が多いように思われます。でもじつは、私たちにとって身近な領域である「私的領域」も、それ自体として民主主義の一つの場所であり得るのではないか。「民主主義=国家」という考え方自体を再検討し、ジェンダー論やフェミニズムの知見を踏まえながら、家族そのものを意思決定の場として見る「家族と政治・民主主義」を主な研究テーマの一つとしています。「政治」とは、一定範囲の「みんな」に関わるルールを、できれば納得いくように決めることであり、「民主主義」とは、「みんな」に関わることを「みんな」で決めることだと私は定義づけています。多数決である選挙によって選ばれた代表が決める「選挙型代表制」は民主主義のやり方の一つですが、最近の政治学では、それ以外に「抽選制」(くじ引き)と「熟議」(話し合い)によるやり方なども注目されています。私は、みんなで話し合って決める「熟議民主主義」について、およそ20年にわたって研究を進めてきました。「みんな」が納得できる形での解決 日常生活を振り返ると、何らかの異なる人々の集まりや人間関係では、揉め事や紛争というものが残念ながら存在します。国家レベルでは、紛争がうまく解決できないと「戦争」や「内戦」となりますが、これは政治によって紛争解決ができなかったゆえの結果として見るべきです。異なる人々が集うという点では、国家も私的領域も事情は同じ。できることならば、そこに関わっている当事者たちが納得できる形で解決していくことが大切です。 経済のグローバル化や気候変動など地球規模での問題が起こる中で、当事者とは国境の中の人たちだけなのか、さらには、そもそも民主主義は人類だけのものなのかが問われます。ですから今後は、「資本主義」「環境」「ノンヒューマン」などの視点から民主主義を捉え直す研究も、進めていきたいと思っています。 私自身の「私的領域」について話すと、妻と私は「事実婚」をしています。また、男性の育休取得率が0.3%だった2002年に、本学の男性教職員ではじめて育児休業を取得しました。こうした家族や人生の転換点において大事なことは、「私たち」の問題として話し合って決めてきました。皆さんも「政治・民主主義」を行っていく大切さを受け止めながら、進むべき道を歩んでいただければと思います。名古屋大学の研究者たち田村 哲樹01

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