名古屋大学 大学案内 2024
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Researchers at Nagoya University「地球上で起きる多様な現象すべてが研究対象。多方面から未知領域の解明に迫ります。」「安定同位体」指標を武器に地球上の物質循環の解明に挑戦ResearcherGUIDE TO NAGOYA UNIVERSITY 202408物質の化学組成や同位体組成を定量 私は地球惑星科学の一分野である「地球化学」を専門としています。地球化学とは、地球を構成する物質の「動き」や「流れ」を定量化することで、地球上のさまざまな場所で進行している物質循環の仕組みや、過去・現在、そして未来の地球の姿を解明する学問です。その中でも私たちは炭素・酸素・水素・窒素といった親生物元素の「安定同位体」指標に着目しています。各構成元素は重さが異なる複数種類の安定同位体から成り立ち、しかもその相対比が発生源毎に微妙に違います。例えば、私達が呼吸して出すCO2は、土壌中で微生物が呼吸して出すCO2と比べると、分子一個あたり0.0002%だけ軽いのです。このような重さの違いによって、放出源を特定する指標として活用することができる安定同位体指標を武器に、温室効果気体がリンクした地球表層圏における物質循環の解明に挑戦し、同時に研究上必要な分析システムや試料採取機器の開発にも注力しています。環境問題対策への利用が期待 その一例として、極微量の安定同位体をトレーサーに用いた、高感度、高確度かつ簡便な水試料中の呼吸速度定量法を、世界で初めて開発しました。新手法による実測を通して海洋や湖沼での貧酸素TSUNOGAI Urumu大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 大気水圏科学系 物質循環科学講座 教授PROFILE専門は地球化学。東京大学大学院理学系研究科 博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、科学技術振興事業団研究員、東京工業大学大学院総合理工学研究科講師、北海道大学大学院理学研究科准教授を経て現職。日本地球化学会学会賞、日本火山学会優秀学術賞など。水発生の主要因を明らかにするなどの研究を進めています。また、植物プランクトンが行う光合成に必須の栄養塩として代表的な硝酸、リン酸の同位体比に関する研究では、世界各地の湖沼や沿岸海域で進行しつつある環境変化の現状把握と対策立案への利用が期待されます。 火山においては、ドローンを用いた高濃度火山ガスの採取と、火山噴気に由来する成分の同位体比測定を他大学との共同研究で成功させ、世界で初めて噴気温度の遠隔測定を実現しました。さらに今後の展開の一つとして、火山ガス中の還元性成分についてエネルギー源としてのポテンシャルを評価し、温暖化対策に新たな光を当てたいと考えています。 私は学生時代は化学を専攻していましたが、研究対象は限定することなく海底熱水・メタンハイドレート・泥火山・地震・温泉・火山・微生物・大気・海洋・湖沼・降水・地下水・土壌・森林・都市・生物地球化学・環境科学・水循環・古環境など多方面に拡張してきました。地球上で起きる多様な現象をすべて研究対象にすることができるのが当学問の醍醐味。試料を採取するためフィールドに出てダイナミックな地球の前線を肌で感じることもできます。学生の皆さんも大学で見聞きしたこと、出会った面白い体験を大切にして知見を広げてほしいと思います。角皆 潤02

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