新潟大学人文学部 CAMPUS GUIDE 2024
18/28

 このタイトルが私の研究内容です。ちなみに、このタイトルが2つの意味を持つと言われて、それぞれがどのような意味解釈になるか説明できますか?一つは、「面白い」という形容詞が「言語」という名詞を修飾する解釈です。例えば、英語という言語は面白い言語で、その面白い英語がどのような仕組みになっているのかを解明したい、という解釈です。この解釈を視覚的に捉える方法として、次のように図示して表示したりします。 (1)[[面白い言語]の仕組み]を解明したいこれは、「面白い」が「言語」と括弧で括られていることから、「面白い」が「言語」を修飾していることを示します。もう一つの意味解釈は、「面白い」という形容詞が「(面白い)仕組み」という名詞(句)を修飾する解釈です。例えば、英語という言語には面白い仕組みが備わっていて、その面白い仕組みを解明したい、という解釈です。この解釈を図示すると次のようになります。 (2)[面白い[言語の仕組み]]を解明したいここでは、先ほどの(1)で示した表示とは異なり、「面白い」が「(言語の)仕組み」の部分と括弧(外側の括弧)で括られています。これは、「面白い」が「(言語の)仕組み」を修飾することを示します。 このように、複数の単語が左右に並んでいる一つの言語表現が、二つ(以上)の異なる意味解釈を持つことがあります。これを専門的には「言語の構造的多義性(structural ambiguity)」と呼びますが、この特性を説明するには、言語が目に見えない階層的な構造(例えば、上記の(1)や(2)で括弧を用いて表示したような構造)を持つと考える必要があります。こうした抽象的な階層構造がどのような特性を持っているのかについて研究する分野を理論言語学(統語論)と呼び、これが私の専門分野です。その中でも特に英語を中心的に扱うので、英語学とも言います。この分野は未解決の問題がまだまだたくさんあり、新しい発見を味わうことのできる魅力的な研究分野です。 したがって、構造的多義性を示す面白い言語(英語)が、なぜ、このような多義性を生み出す面白い仕組み(階層構造)を持っているのか、に興味・関心を抱いたら、統語論(英語学)に触れてみるのも面白いと思います。日常生活を送っていて、「なんでこの人はこんなことを言うんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか。他者の真意を想像して嬉しくなったり悲しくなったり、ときには混乱したりする経験を誰しもお持ちだと思います。実は、こうした「他者にたいする問いかけ」と文学研究は同じ根っこを持っています。つまり、私が専門とするドイツ文学・思想とは、ドイツ語の技術を基礎にしながら、他者=テクストが発する声にじっくりと耳を傾け、その声が意味するところを追求する学問なのです。私の研究対象は、戦間期ドイツを代表する文筆家ヴァルター・ベンヤミンの作品です。もう10年くらい彼のテクストを研究していますが、「なぜこの単語をあえて使っているのだろう」「なぜこの部分を削除したのだろう」などなど、テクストから立ち現れる「なぜ?」がいまだ途切れることはありません。ベンヤミンから投げかけられる無限の問いに立ち向かうためには、彼の隣人たちの雄弁な声もたくさん聞く必要がありますし、ついでにこの人が生きた場所の空気を実際に感じたいとの思いから故郷ベルリンにまで足を運びました。したがって、テクストを「読む」とは机の上の作業を指すだけではなく、自らの思考世界を広げるプロセスであると言えます。外国語文学研究の魅力は、国や時代の垣根を超えて、テクスト越しに作者や登場人物たちと友人になれることです。ドイツ文学では、ヴェルター、メフィストフェレス、ユーリウスとルツィンデ、ハンス・カストルプ、ヨーゼフ・Kといった数えきれない人物たちが、みなさんからの問いかけを待っています。戦後に活躍した女性思想家ハンナ・アーレントは、「考えること」を、「私と私自身との対話である」と言いました。他者=テクストと静謐に、そして同時に活動的に向き合うことは、自分自身も気づいていなかった内なる声との出会いでもあります。こうした出会いの瞬間をぜひ楽しんでみてください。KITADA ShinichiTANABE Keiko17北田 伸一准教授田邉 恵子准教授

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る