するため、糖鎖と結合して体内に入り込む細菌やウイルスの「侵入しやすさ」、つまり病気の「かかりやすさ」「かかりにくさ」が、血液型の影響を受けることを意味します。世界的流行が続く新型コロナウイルス「COVID-19」も、血液型によって感染しやすさ/重症化しやすさが違うとする論文が複数発表されています。 がんの検知に使われる「腫瘍マーカー」も、半数以上が糖鎖に関係しています。実用性が高い糖鎖研究もありますが未解明の謎は山積しており、文部科学省の「ロードマップ2020」にも、糖鎖研究は国家戦略として今後推進すべき重要課題のひとつとして掲げられています。 三善教授は1961年生まれ。49歳の頃、親友が膵臓がんにかかり、帰らぬ人となりました。膵臓がんは初期の自覚症状がなく、原因となる基礎疾患も解明されていないため発見が難しく、患者の5年生存率が他のがんに比べて極端に低いのです。 こうした経験から近年、糖鎖を使って膵臓がんを診断する腫瘍マーカーについての研究を、他の学部と力を合わせて進めています。膵臓がんに対しては以前から「CA19-9」という糖鎖がマーカーとなっていましたが、肝硬変など別の病気でもCA19-9が増えるため、膵臓がんを発見する決定打にはなっていません。 三善教授らはグライコプロテオミクスという糖鎖解析の手法を用いて、新たに「フコシル化ハプトグロビン」という糖鎖マーカーを発見し、企業の協力も得ながら検査キットを作り出しました。このマーカーは大腸がんの肝転移予測にも有効であることがわかっており、広範な応用が期待されています。 さらに、消化器外科の土岐祐一郎教授・理学研究科の深瀬浩一教授らとの共同で、患者本人の免疫力を生かした膵臓がんの「糖鎖ワクチン療法」の開発までたどりつきました。膵臓がんのワクチンとなる腫瘍抗原にブタの糖鎖を組み込む方法です。通常の方法で腫瘍抗原を免疫しても異物として認識されにくく、抗体がなかなか生じないという問題がありました。ところがヒトとは異なる糖鎖をつけて体内にいれると、自然抗体が反応して強い拒絶反応が起き、免疫機能が著しく活性化するのです。 マウスを使った実験では、抗体の量が大幅に増えて膵臓がんの増殖が抑えられ、マウスの生存期間が約2倍まで延びました。ヒトでも同様の効果が期待できるとし、実用化の道を探っています。 三善教授がマーカーの開発にこだわってきたのは、単に病気を治すためだけではありません。膵臓がんの生存率が低い理由のひとつが、発見された段階で他の臓器への転移が進んでいるケースが多いことです。完治の見込みがないのに不要な手術をすれば、患者の体力を奪って新たな苦しみを与え、死期を早めることさえあります。マーカーを活用して病状を正確に把握し、化学療法や免疫療法など適切な処置を選択すれば、生活の質(Quality of Life)を維持しながら余命を延ばすことも可能になるはずです。 膵臓がんの研究以外にも、三善教授は悪性の脂肪肝を非侵襲的に糖鎖マーカーで診断する(通常は肝臓の組織をとって病理学的に調べる)方法の開発にも成功しています。人に対してより優しい医療のあり方を考えるとき、痛みを伴わずに患者の体の状態をつぶさに観察できる検査技術の進化は、必要不可欠な要素になります。標的は膵臓がん三善教授が開発した膵臓がんを検出する検査キット研究室での指導の様子患者の「生活の質」を高める三善教授にとってとは一般的な意味では、医学研究は自己満足でなく、人のためにあるべきもの。保健学科においては、研究を通して人を育てることに主眼を置いています。受験勉強では「既知のものを理解する力」のみが求められますが、大学で研究に打ち込むことで新しいアイデアを生み出し、形にしていくための力を得ることができます。大阪大学の最先端の研究をWebでもご覧いただけます。研究特集教育システムインフォメーション大阪大学の研究9キャンパスライフ
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