「細胞」を安価で安定的に届けるには?~コトづくりで再生医療技術の産業化へ~工学研究科 教授 紀ノ岡 正博 iPS細胞(人工多能性幹細胞)などからつくった目の網膜や心臓の筋肉、神経などを移植して、損なわれた機能の回復を図る「再生医療」が急速に進展しています。これまで根治するのは無理とされてきた難病の治療に道をひらくものとして世界中で開発競争が繰り広げられていますが、「生きもの」である細胞を用いた治療には、既存の医薬品によるのとは異質の難しさがあります。ひとつは化学物質の製造とは違った、細胞製造の不安定さ。再生医療の普及には高品質の細胞を安価に、そして安定して供給できる産業化が欠かせません。しかし、まだ社会には大量に細胞製造を行う技術も、それを正しく扱える人もルールも不足しており、紀ノ岡教授は「工学的視点に基づいた、細胞製造に最適なシステム」を構築することで医師たちを支えることを目指しています。キーワードはモノづくり、ヒトづくり、ルールづくりを統合した「コトづくり」です。 吹田キャンパス産学共創A棟内にある研究室。中央に据えられた作業モジュール内ではロボットアームがシャーレとピペットを器用に動かし、細胞に栄養分を与えるための培地交換を黙々と続けています。その周りには培地交換を終えた細胞を一定の環境下で培養させるインキュベータモジュールや、細胞や試薬を人間の手で出し入れするための搬入モジュールが数台ずつ並んでいます。各モジュールは無菌状態を保ったまま連結・切り離しができ、心臓部である作業モジュールが1つの細胞株で作「神の手」から「機械の手」にPROFILE紀ノ岡 正博(きのおか まさひろ) 1989年大阪大学基礎工学部卒業、91年同学基礎工学研究科博士後期課程退学、同年大阪大学基礎工学部助手、96年大阪大学工学博士取得、2000年大阪大学大学院基礎工学研究科講師、03年助教授、09年から現職。この間、1996年10月10日から1年間、スイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校化学工学科にて客員研究員。6大阪大学の研究 ~知を拓く人、新たな探求と挑戦~
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