SAIDAI CONCIERGE vol.26
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Welcome to my laboratory既知のソースから新たな価値を見出す面白さ 私の専門は、日本の中世史(特に鎌倉〜室町時代)ですが、この時代の史料は大半が活字化されています。そのため、研究者が見ている史料は大体同じ。そんな中、どのような着眼点で史料を集め、そこから情報を引き出し、新たな価値を見出すかが研究の独自性につながります。私にとって、歴史を研究する醍醐味とは、まさにこの点で、断片的な情報から、仮説の検証に使えそうなものを挙げ、可能な範囲でそれらを結びつけ、歴史の流れを復元することなのです。 ゼミでは、このような研究を行うために必要なスキル——調べものの仕方や史料・論文の読み方について指導していきます。3年生の前期は、読み下し文で書かれた、織田信長の一代記である「信長公記」を精読し、史料の読み方を身につけます。後期は学術論文を読み、論文を読む力を習得します。4年生になると、卒業論文作成に向け、各自が決めたテーマごとに本格的な研究を始めます。なお、日本史なら研究する時代は問いません。中世ならではの複雑な社会の枠組みを紐解く さて、中世という時代の特徴は、権力や正当性の所在が複数存在するところにあります。例えば、鎌倉幕府がある地域に対して、何らかの判決を出しても、実際にその判決内容が実行されるかどうかは別の話。そして、統一的な政府によって秩序立てられていないため、どの階層でも武力行使が問題解決の選択肢となっていたのです。このように、一筋縄では行かない複雑な部分があるのが、この時代を研究する魅力でしょうか? 埼玉大学に着任してからは、武蔵国(現在の埼玉県、東京都周辺)を中心とした、東日本の武士の歴史について研究を進めています。中でも注力しているのは、15世紀に荘園制が機能していたかどうかを解明すること。私自身は機能していたと考えていますが、その反証となる事象がいくつもあるのが現状です。先述の通り、中世は権力や正当性の所在が複数存在し、社会の枠組みを把握するのが難しいのですが、1つずつ事実を明らかにしたいと思います。教育学部 学校教育教員養成課程/清水研究室現代に残る史料を着想に従い配列し歴史の流れを復元するProfile清水 亮[しみず りょう]教育学部 准教授1996年 慶應義塾大学文学部史学科日本史学専攻卒業1998年 慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻 (日本史分野)修士課程修了2002年 早稲田大学大学院文学研究科日本史学専攻 博士後期課程単位取得満期退学2007年より現職情報の本質を見つけよう 歴史の研究では、様々な史料を読み解いて論文を執筆しますが、どれほど優れた研究論文でも100%はありません。そこでどのような史料や研究論文でも、内容をそのまま鵜呑みにするのではなく、自分で調べ直すことが必要です。学生には、このような視点を持って研究に臨んでもらいたい。そして、世の中に溢れる情報についても、一度、自分で確かめ、考えるというスキルを養って欲しい。自分で考え、自分で判断をすることは社会に出て仕事をする上でも欠かせません。そうでなければ、他人を説得することはできませんから——。教育学部だからこそ広がる研究の視野 教育学部は多様な学問分野で構成されています。 それ故、多種多様な分野の研究者や様々な学問を学ぶ学生に接することができますが、このような環境の中で研究ができるのは、非常に意義深いことだと感じています。それは「日本中世史」という専門分野だけでなく、より広い「学問」という枠組みの中で、自分の研究がどのような位置付けにあるのかを常に考えられ、研究の視野や範囲を広げることが可能だからです。 これは、私のような研究者にとってだけではなく、学生にとっても大きなメリットだと思いますね。message清水准教授より受験生へ7SAIDAI CONCIERGE

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