TechTech~テクテク~No.26
8/16

 東工大理学部を卒業し、同大学院へ進学する時点でメカノマイクロ工学を専攻した只野准教授。ロボット開発の魅力について、「頭の中でイメージしたものを実際につくり上げ、それを目の前で動かせること」と語る。「特に今の研究では、自分たちで設計図を描き、部品を調達し、それを組み立てる。さらに動かすためのプログラムも作成します。ゼロからオリジナルのロボットを生み出すので、それが思い通りに機能したときは、やはり単純に嬉しいですね」  ただそれも、実際に医療の現場で使えるものでなければ価値がない、と付け加える。ロボットというと日本のお家芸のようなイメージもあるが、それは主に工場等で使う産業用ロボットの話。手術に直接かかわる機器やロボットとなるとほぼ欧米からの輸入に頼っているのが実状だ。  「多種多様な研究開発を行う東工大ですが、その中には実際の社会で役に立つ“実学”志向なものも少なくありません。高齢化や医療の問題はこれからの日本が避けては通れないものですから、日本のメーカーが力を発揮できるよう、私たちもできる限り貢献していきたいと思っています。そのためにも、現在開発中のロボットをいち早く実用化することが第一目標。性能や精度をいっそう高めていきたいですね。機械系の開発では、あちらを立てればこちらが立たず、という状況によくぶつかります。もっと可動範囲を広げたいが機構はシンプルにしたい。もっとパワーを出したいが装置は小型化したい……。そうしたトレードオフの関係にある課題をパズルのように解いていき、最善の道を探していくのが私たちの仕事。試行錯誤を繰り返す、厳しい作業ではありますが、それこそが開発の醍醐味だと考えて日々頑張っています」 医工連携の分野に携わってからおよそ10年になる只野准教授。将来的には、手術のやり方を根本から変えるようなロボットを製作するのが夢だという。実際、最新医療の分野では、テクノロジーがそのあり方を大きく変革してきた。まずは、ヘッドマウントディスプレイによる内視鏡操作システム、力覚を持つ手術支援ロボット、この2つが内視鏡手術にどんなイノベーションをもたらすか、これからに注目だ。力覚とは、いわばモノに触れたときに感じる“手応え”のことだが、なぜこの感覚が内視鏡手術で重要なのだろうか。  「例えば、鉗子という手術器具で内臓を押さえたり、切開した部分を糸で縫ったりする際、開腹手術であれば手応えがあるので、微妙な力加減が可能です。しかし内視鏡手術では、鉗子を機械的に動かしているので、手元では圧力や張力を感じられない。そのため、映像で臓器の変形の様子や糸の張り具合を見て、器具の動きを調整しなければならないのです」と只野准教授は説明する。  確かに、何の手応えもない状態で、モノを適切な力で掴んだり、糸で縫ったりすることを想像してみれば、それがいかに難しいかはよくわかる。だから、いわゆる遠隔操作システムでは、多くの場合、この力覚の手元へのフィードバックが重要なテーマとなるのである。  「器具の先端に力覚センサーを取り付ける方法もありますが、体内に入ることを前提に洗浄や滅菌、小型化などの問題を考えると簡単ではありません。そこで私たちが取り組んでいるのが、空気圧を器具の駆動や力覚の伝達に利用するシステムの開発です」  モーターを用いた従来の遠隔操作システムにおいて力覚のフィードバックが難しい原因のひとつに減速機(歯車)の存在がある。ごく単純化して説明すると、器具の先端にかかった力を逆に手元に戻そうとしても、間にある減速機の摩擦などが邪魔してそれが妨げられてしまうのだ。ところが空気圧駆動のシステムでは減速機が不要であるため、器具にかかった力をフィードバックしやすくなる。具体的には、器具側で感じた力を空気圧の形でとらえ、それを再び力に変換するとどの程度の強さになるかをコンピュータで計算。相応する強さの力を電気的に発生させ、手元で感じさせる仕組みを採用している。  「一方、手術器具には繊細で滑らかな動きが要求されますが、その点でも空気圧は優秀で、非常にソフトな駆動を実現します。さらに0.1mmの精度で器具の位置を調整することも可能なため、新たな駆動源として空気圧は非常に有望。このシステムについては4、5年先の実用化を見据えています」と只野准教授は言う。 操作状況を示したコンピュータ上の画面前後、左右、上下、そして斜めの動きも直感的に操作できる。AB鉗子に加わる力術者へ力覚をフィードバック鉗子空気圧アクチュエーター(駆動)ZoomINZoomOUTRIGHT圧力センサー電気信号に変換空気圧アクチュエーターの圧力変化を検出。鉗子に加わる力を推定し、力覚をフィードバック。力覚をフィードバック。鉗子の先端から力を検出する電気的なセンサーを排除。洗浄・滅菌・小型化 などの点で有効。洗浄・滅菌・小型化 などの点で有効。空気圧駆動の手術器具のポイントヘッドマウントディスプレイによる内視鏡操作システムLEFT力覚センサーがなく、コンパクト手術のやり方を根本から変えたい8Tech Tech

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る