TechTech~テクテク~No.27
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左上:測量のために篠野教授が壁に登り、ベンチマークを貼る場面も。/上中央:ジョージア共和国のキン左上:測量のために篠野教授が壁に登り、ベンチマクを貼る場面も。/上中央:ジョジア共和国のキンツビシ修道院。/右上:9世紀に創立されたアルメニア共和国のタテヴ修道院。/左下:背景の建物は、観ツビシ修道院。/右上:9世紀に創立されたアルメニア共和国のタテヴ修道院。/左下:背景の建物は、観光名所としても有名なジョージア共和国のサメバ修道院。海抜2,145mの山の頂に建つ。写真は、この修光名所としても有名なジョージア共和国のサメバ修道院海抜2145mの山の頂に建つ写真はこの修道院を調査した後の記念撮影。/右下:篠野研究室のメンバー。道院を調査した後の記念撮影/右下:篠野研究室のメンバ 「建築史とは工学の中でも“過去”を扱う数少ない学問。建築や都市は一度造られると、ときに何百年もその形を留め、人々の生活に影響を及ぼします。建物がどうできたかという過去を知ることはすなわち、いかに未来を創り出すかにつながっていくのです」。篠野志郎教授は、建築史に取り組む意義をこう語る。 篠野教授自身は研究室のメンバーと共に、東アナトリア地域や、関連の深いシリア・アラブ共和国に赴き、現地の研究機関と協力しながら歴史的建築物の調査を続けている。この地域には4世紀から15世紀にかけての貴重なキリスト教建築が数多く残されているが、十分な保存措置が取られないままに、度重なる地震や経年劣化にさらされていた。篠野教授率いる調査隊は、そこで学術的な調査だけでなく、保存・修復でも実務的な活動を展開。地域に根ざした活動が評価され、アルメニア共和国からは文化賞を授与されている。 「遺構の保全が進まなかった背景には、関係国の経済状態や宗教問題など複雑な事情があります。海外の建築調査では、それぞれの国が抱える課題や実情を理解した上で、人間関係を含めて社会の中に入り、現実的な協力の枠組みを築き上げていくことが不可欠です」 一方、日本の建築を研究対象とするメンバーもいる。社会人経験もあるポスドクの服部佐智子さんの専門は、江戸城大奥や近世武家住宅での女性の生活空間。当時の建築図面や日記などの史料を紐解き、近世の女性の暮らしに新たな光を当てる。「現代に続く住まいの源流である近世武家住宅はどう造られ、暮らしにどんな影響を与えていたのか。以前住宅メーカーで設計の仕事をしていたときに感じたそんな興味が、研究の根っこになっています。既存の史料でも、着眼点次第で独自の解釈が成立するのが建築史の面白さですね」 このように篠野研究室では、学生が関心のあるテーマで研究を行っている。「建築史は実験科学と異なり、個人の感性や思想を大事にし、言葉を用いて歴史の真実に迫る学問。各自が人生で得た知識を活かすことで斬新な研究が生まれるはずです」─篠野教授が“主体性”を重視する所以だ。そして高校生へもこんなメッセージを送る。「自分が社会にどんな関心を抱き、その関心をよりよい社会づくりにどう活かせるか。そんな視点から将来を考えてほしいと思います。私は今期で定年を迎えますが、東工大には幅広い学びの場がありますから」。自分の関心を発見する。それが研究の第一歩だ。建築史は感性を表す学問大学院総合理工学研究科 人間環境システム専攻特別研究員服部 佐智子さん※2015年3月定年退職予定大学院総合理工学研究科 人間環境システム専攻篠野 志郎 教授2015 Spring

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