TechTech~テクテク~No.28
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「水素同位体比」を手がかりに、惑星科学における難問を解いた臼井助教だが、「研究のキーワードには、『低汚染下での局所分析』を加える必要がある」と言う。どういうことか。 「火星の水の在りかを調べるには、隕石の水素同位体を分析すればいい。このアイデア自体は、必ずしも特別なものではないんです。ただ現実には、これが技術的に非常に難しかった。岩石などの組成分析では、粉末状にして分析器にかけるのが一般的ですが、隕石の場合、この方法だと地球上の水分などで“汚染”された部分も一緒に分析することになってしまう。いかに高い精度で、確実に火星の成分だけを分析するか。それが研究の重要なポイントです」 まず、火星隕石の試料(分析のためのサンプル)をつくるにあたって、臼井助教が利用したのがインジウムという金属だ。試料の固定世界初の高精度分析を実現!火星における水素の貯蔵層を表した模式断面図。凍土となった水が、かつて海洋が存在したと考えられている火星の北半球に存在している可能性が高い。火星の地下に氷(凍土)となった水が存在している?H2OH2OH2O霜水を含む表土層雲を構成する水滴や氷結晶NighttimeDaytime水蒸気H2OH2OH2O凍土には石油系の樹脂が使われることも多いが、これだと石油の中の水素が汚染源となってしまう。そこで試料を汚染しない液体インジウムを用い、真空下で試料を固定。さらにNASAジョンソン宇宙センター、カーネギー研究所と共同し、水素同位体分析用に特別に改良された二次イオン質量分析計(7ページ)で水素同位体分析を行った。 「具体的には、セシウムのイオンを数ミクロンという極細のビームにして、隕石中の衝撃ガラスと呼ばれる部分に照射。照射された領域から飛び出してきたイオンを分析しました。衝撃ガラスは、微惑星などが火星にぶつかったときの衝撃で形成されるもので、火星の大気や表土成分が含まれていると考えられています。そのため、ここにピンポイントでイオンビームを当てられれば、正確に火星の成分だけを分析できるのです」と当たり前のように臼井助教は解説するが、まさにこれこそが助教らが開発したオリジナルの分析法。数ミクロン単位での局所分析により、世界で初めて火星表層水成分のみの水素同位体比を高精度で明らかにしたテクノロジーである。 Photo by:NASATech Tech8
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