TechTech~テクテク~No.29
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環境問題は人類共通の課題。未解明の部分も多い「表面/界面科学」からのアプローチで、これまでになかった材料をつくり、地球環境を大きく改善する新しい可能性を探る。そんな材料科学のフロンティアを切り開く研究が進められている。界面科学で地球を救う本来はない性質を付与したり、固体が持っている性質をさらに高めることが可能になる。 「物質の表面は外界とのインターフェースであるため絡む要素も多く、また内部とは異なる構造を持つことも珍しくない。ミクロの構造の違いが目に見えるマクロな機能の違いとして出るという特徴もあります。そこが研究の面白さでもあり、難しいところでもありますね」(中島教授) そうした特徴から、近年では物質の電子構造に基づくナノレベルの研究が主流となっており、原子の挙動や安定性までに踏み込んだ研究で多くの成果が生まれているという。 中島教授が主に扱っているのは、環境浄化光触媒や撥水・親水材料だ。例えば光触媒である酸化チタンは、光が当たると地球上のほぼすべての有機系有害物を二酸化炭素と水に分解し、大気や水を浄化する。また、水をはじく撥水材料は、環境材料として幅広い可能性を持っている。 「超撥水の『物が付着しない』という性質を上手く応用すると、摩擦や熱によるエネルギーの損失を防ぐことができます。例えば船の壁面を加工すれば、造波抵抗が減るため燃料を節約でき、また工場機器などのパイプの内側に水や油が付着するのを防げば、効率良く物質を運べるようになって余計な電力もかからないわけです」(中島教授) では、この超撥水はいかにして実現されるのだろうか。自然界にはハスの葉の上などで水滴が転がるという現象がある。これは葉の表面にある微細な凸凹に水をはじく働きがあるため。そこで様々な有機・無機材料の表面に凸凹をつけて水をはじく力を上げ(図1)、さらに撥水性の高いフッ素系、アルキル系の物質などをコーティングしていく。極めて小さいサイズでの凸凹構造の制御とコーティング剤の選択、配合、コート法などがポイントになる。表面の凸凹による撥水状態の違い撥水表面が凸凹になると、表面と水滴との間に空気が噛み込むようになる。その結果、実際に水滴が表面に接している面積は大幅に小さくなり、ほとんど抵抗なく転がるようになる。高い撥水性を示す植物の葉(ハスなど)の表面を電子顕微鏡で見てみると、こうした凸凹が何重にも組み合わされた複雑な形になっていることが確認できる。空気の噛み込み量増大「ものつくり」と「評価」を両輪に新素材を作製図1金属酸化物を用いた多孔質球状粒子。一見すると白色の粉末だが形状は球状で、表面から内部に10nm程度の孔が無数に空いている。有害物の吸着能力に優れ、紫外線照射下で光触媒作用により、吸着した有機系有害物を効果的に分解することができる。表面断面1㎛1㎛水滴材料表面600㎛2016 Spring3
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