TechTech~テクテク~No.29
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今は研究が『すぐに役に立つか』という基準で語られることが多い。社会や若い人もそうですね。オートファジーがきちんと解明されるまでには、あと50年はかかるかもしれません。でも私自身はもう研究をやめていいなという気にはなりません」(大隅栄誉教授) 大隅栄誉教授らのオートファジー研究は、共同研究なしには語れないという。「構造を全部決めようよ」を合言葉に、北海道大学の稲垣冬彦教授をはじめとする研究者同士の、息の長い信頼関係があったからこそ進めることができた。そこにあるのは、利害関係でなく「根本を突き止めたい」という共通の純粋な欲求だ。 最後に、大隅栄誉教授に地道な研究のなかで発見や気づきを継続していくコツについて聞いた。 「実験の9割は失敗ですし、心が折れそうになることばかりです(笑)。ただ、その人がそれまでの知識でわかることや想像できる結果は、  実はたいしたものではありません。失敗の過程で、違う発見があ   るんだと、気持ちに余裕を持って進んでいると、あるときそこ    をポンと飛び越えるパラダイムシフトが起こせるのではない     でしょうか」今でも時折先生ご自身でピペットマンを握って実験をされる姿を見かけることもあります。将来の夢や目標は?自分の研究が、いつか何かの役に立つ基盤になればと思います。語学にも興味があるので、自分の能力を活かしながら世界中の人たちと仕事がしたいです。将来の夢や目標は?大隅先生や中戸川先生のように、何かしらの分野を開拓していけるような人になりたいです。誰も解き明かしていない謎に対して、挑戦していきたいと思っています。大学院生命理工学研究科 生命情報専攻 博士後期課程3年志摩 喬之(しま・たかゆき)大学院生命理工学研究科 生体システム専攻 博士後期課程2年原田 久美(はらだ・くみ)研究者としてはものすごく遠い憧れの存在。でも普段は学生にもフラットで優しい先生。真面目で穏やか。学生との距離感が近く、研究を進める際にもとても議論がしやすいです。研究室では、先生用のデスクスペースを設けずに、学生と肩を並べてお仕事されています。Student Interview 01Student Interview 02 こうした東工大の一連の研究は、すべて酵母で行われている。 「基本的な問題を解くには、酵母が最適。ヒトの遺伝子の染色体は2組になっていますから、一方に不全が起こってももう一方がカバーするので見つかりにくい。酵母の半数体※は染色体が1組なので遺伝子に変化が起こるとすぐに表現型として現れます」(大隅栄誉教授) また中戸川准教授も「哺乳類の場合、多細胞生物なので、どういった組織の細胞を使うかによって、結果が左右される場合もある」と言う。 まずは、酵母のような「シンプルな生き物で、クリアな答えを出す」「根本にある分子メカニズムを明らかにする」―言葉の端々に、何十年か先の思いもよらぬ役立ち方や、大きな発見につながる“科学”を担っているのだという自負が渗む。 「科学は人類の長い営みの上に成り立つもの。私も一人の研究者として、この歴史的な活動を少し嵩上げできればいいと思っています。クリアな答えを「酵母」で見つける根本的な問いへの探求心から、パラダイムシフトが生まれる大隅先生って?中戸川先生って?大隅先生って?中戸川先生って?る  る  るる んんんだだだとと、気持、気持ちに余ちに余余裕を持裕を持裕   をポンをポンと飛びと飛び越える越えるパラダパラ    でし でしょうかょうか」」左:蛍光顕微鏡を使い、特定のタンパク質の細胞内での挙動を観察。右:シーソーのような動きで、ゲルなどの染色や脱色を行うシェーカー(振と う器)や、超高速で回転する遠心機(遠心分離機)などが、研究室のあちらこちらで稼働している。※酵母には、染色体が1組の半数体の世代と、2組になる二倍体の世代があり、この周期を生活環という92016 Spring

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