東北大学広報誌 まなびの杜 No.79
4/12

大野 和則◉文text by Kazunori Ohnoまなびの杜 79号|03ロボット技術と犬を融合した被災者探査 私たちは、災害現場で被災者を探査するサイバー救助犬の研究を行っています。サイバー救助犬ってなに?犬型ロボット?と聞かれることがよくあります。サイバー救助犬とは、サイバースーツを身につけた救助犬のことを呼びます(図1)。 私たちが開発した技術は、救助犬が装着して行動を記録するサイバースーツと、言葉を話せない救助犬が探査の過程で知り得た情報を、リアルタイムにハンドラー(犬に指令を与える人)に配信する技術と,情報を要約し可視化する技術になります。このような救助犬の探査を高度化する研究は、社会の安全に大きく貢献します。救助犬の高い探査能力  探査を行う犬の歴史は古く、約千年と言われています。山岳救助犬、災害救助犬、警察犬など、用途に応じてさまざま育成されています。その活躍ぶりを山岳救助犬を例に紹介します。スイスアルペンクラブの報告では、アルプスやジェラの山岳地帯では、二〇一五年に年間二〇〇人以上が死亡する一方で、年間二五〇〇人以上が救助されています。この救助には山岳救助犬が貢献しています。災害救助犬の実績は、国内外でも多く報告されていませんが、山岳救助犬と同様に優れた探査能力を有しています。二〇一一年三月の東日本大震災でも、多くの救助犬が瓦礫に埋もれた被災者を探査しました。また、正確なデータはありませんが、二〇一六年の熊本地震の際は、各地から五〇頭近くの救助犬が駆けつけたと日本救助犬協会の方から聞いています。 救助犬は、優れた行動力で足場の悪い瓦礫の上を動き回り、人間の一〇〇万倍〜一億倍と言われる鋭敏な嗅覚で瓦礫に埋もれた被災者を発見し、吠えて居場所をハンドラーに伝えます。災害現場では、待機や移動を含めて数時間程度活動します。一回一〇分程度の探査を、休みを取りながら複数回に分けて行います。一〇分という時間は、人の活動時間と比べるとあまり長くないように思われるかも知れませんが、ビル探査の訓練では、一〇分程度で複数階に隠れた複数の被災者を発見することが出来ます。救助犬の課題とロボット技術の必要性  一方、救助犬が消防隊員と連携して救助を行うには、課題があります。消防隊員は、災害現場から集まった被災者の情報を基に、トリアージ(探査の優先度を決定し選別すること)を行い、どの順番で、どの資機材を利用して救助を行うか計画します。これを行うには、被災者の場所だけで無く、被災者の人数、年齢、性別、怪我の状態、周囲瓦礫の状況など、詳細な情報が必要になります。災害救助犬は、探査の過程でこれらの情報を見ていますが、言葉で伝えられないため、十分な情報が消防隊員に伝わりません。 加えて、救助犬は臭いで人を発見しています。瓦礫の中のトイレや食べ物など、人ではないものに反応することも希にあります。また、現場での長時間の探査の時などは、探査に対する集中が維持できないこともあります。このような探査の信頼性に関わる状況は、ハンドラーが見て判断していますが、限界もあります。 私たちは、優れた救助犬の不足する能力をロボット技術で補助することで、探査の質や正確さ高め、災害現場で命を落とす人を減らせると考えています。ロボット技術を利用した探査の記録・配信・可視化  ロボット開発で培った、ロボットの行動を記録・解析・可視化する技術を利用することで、犬が探査の過程で見てきた被災者を探査するサイバー救助犬特集図1/サイバー救助犬:体重の10%未満のサイバースーツを身につけた救助犬(日本救助犬協会チームさくら所属ゴン太)の瓦礫探査

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る