東北大学広報誌 まなびの杜 No.82
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シア・中国・モンゴル・朝鮮半島、そして日本からなる東北アジア地域を研究するセンターです。ですから日頃の仕事でのパートナーは、多くがこれらの国の研究者です。センターの教員はいずれかの国の言葉を話し、会議などで用いる言葉も様々です。フィールド・ワークを信条とする地域研究は、地域の人々との交流の中で行われます。私自身は歴史学者ですが、膨大な現地語の文献を読みます。言葉を学ぶ熱意は、普遍的な何かではなく、地域の人々やその社会・文化へのつきせぬ関心に支えられています。 学生たちも多くが、東北アジアの国々からやってきます。本年度のデータによると、本学の留学生二○二八人の内、一二五九人、実に六十二%が東北アジアの国々の学生たちです。留学生たちの多くは、母国で日本語を学んで来ます。自国でどれほど外国語を勉強しても、実際にそこで生活してみると、困難の連続です。私自身も学生時代にモンゴルの大学に留学し、二年弱生活しました。留学生たちの苦悩はよくわかります。 東北アジア研究センターは、ロシア交流推進室と連携して、二○○九年以来、ロシア・シベリアの中心都市ノボシビルスクで「日本 ヨーロッパの「リベラル・アーツ」、すなわち「自由七科」は、文法学・修辞学・論理学・数学・幾何学・天文学・音楽から成ります。それは真理を人に伝えるために必要な学術です。このうち三つが言葉に関わります。ただ、それはその言葉が通じればの話です。異なる言葉を話す「外国人」に何かを伝えることの大変さは、「外国語」を勉強したことのある人には自明でしょう。 東北大学東北アジア研究センターは、ロアジア講座」を開催しています。これは、本学で日本やアジアを研究する教員にお願いして、ノボシビルスク国立大学で学ぶ学生たちに講義をしてもらうというものです。第一回「日本アジア講座(二〇〇九年十一月開催)」には一○○人以上の学生が集まりました。同時に開催された卒業論文発表会では、ロシアの学生が、日本語で、日本の古典から秋葉原の若者文化まで、多様な研究テーマで発表をしてくれました。同大には中国語や韓国語の講座も設置されており、やはり同様なのでしょう。彼らの目の輝きは、外国研究を志す日本人の学生たちのそれと変わるところはありません。 二○一五年からは、ノボシビルスク大学の学生を本学に招き、本学の大学院生とアジアをテーマに研究発表を行う「日露ワークショップ」を開催しています。テーマは日本だけではありませんから、共通語は英語になります。そうなると参加した本学の学生たちに英語のトレーニングをしなければなりません。これまで二回開催されたワークショップでは、本学に学ぶ日本人や留学生たちが、ロシアの学生たちと英語で議論をしました。 ヨーロッパ人がラテン語で真理を語り、日本の儒学者たちが中国人と漢文で筆談した時代は幸せな時代だったのかもしれません。現代の我々は、さまざまな言葉で語りあわなければなりません。 英語教育の必要性が叫ばれる今日ですが、英語国に関心を持つ者を別とすれば、国際語としての英語は交流のきっかけにすぎません。東北アジア研究センターは、地域の言葉を操りながら、異文化の多様性へのこだわりを大切にしたいと思っています。岡 洋樹(おか ひろき)1959年生まれ現職/東北大学   東北アジア研究センター 教授専門/東洋史・モンゴル史岡 洋樹◎文text by Hiroki Okaまなびの杜 82号|01多様な言語を繰る研究フィールド日露の大学間による教育・研究交流地域の言葉を大切に異文化の多様性にこだわる日本アジア講座での講義ノボシビルスク大学の新キャンパス夜景「教育」考│新世代へのメッセージ│異文化交流における言葉 東北アジアで考えたこと

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