東北大学広報誌 まなびの杜 No.82
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夏目漱石生誕150周年記念特別展の開催―夏目漱石の魅力を東北の地・仙台で―村上 康子◎文text by Yasuko Murakami村上 康子(むらかみ やすこ)1968年生まれ現職/東北大学附属図書館   情報サービス課長専門/図書館情報学http://www.library.tohoku.ac.jp/地域大学と02|まなびの杜 82号 夏目漱石(一八六七〜一九一六)は、一〇年間という決して長くない文筆生活の中で数々の名作を生み出し、今なお読み継がれ、人々から愛されている作家の一人です。その生涯は四十九年と短く、彼が遺した功績や数々の逸話から、驚く人も少なくありません。 東北大学附属図書館には、漱石が自ら読むために集めた約三〇〇〇冊の旧蔵書が、「漱石文庫」として、同館の貴重書庫に大切に保管されています。愛弟子の小宮豊隆(同館第五代館長)の尽力により、戦災を免れるように東京の漱石山房から仙台の地へ移されたものです。 二○一七年は、夏目漱石生誕一五〇周年ということから、せんだいメディアテークを会場に大学の社会貢献の一環として、また仙台市市民文化事業団設立三〇周年記念事業として、仙台文学館との共催により、「夏目漱石〜その魅力と周辺の人々」と題した特別展示を開催しました。展示ポスターは、漫画家の香日ゆら氏に依頼したもので、漱石を囲むように弟子の小宮豊隆・阿部次郎、後輩の土井晩翠という仙台ゆかりの三名、そして親友の狩野亨吉が描かれています。縁あって、当館ではこの先人達の個人文庫も所蔵しています。 昨年は、漱石没後一〇〇年を偲ぶ企画展「漱石文庫〜文豪が遺した創作の背景」を開催し、漱石文庫を通じてその人と成りを展示し、好評を得ました。今回は、漱石の周辺の人々からのアプローチにより、こんなにも慕われた夏目漱石がどのように魅力的な人物であったのか、市民の皆様に思い思いの漱石像を再発見していただけるような展示に仕上げました。 第一部「漱石文庫」では、漱石の自筆資料から個性あふれる人と成りを作家・学者・家族・病い・几帳面・多趣味と六つの面から展示しました。第二部「漱石あれこれ」では、江戸学の宝庫「狩野文庫」の旧所蔵者で漱石の親友狩野亨吉との比較展示を。もう一つは、香日ゆら氏が描くキャラクターによる大相関図や四コマ漫画を用い、漱石の人物関係を分かりやすく紐解く内容を展示し、多くの年齢層の興味を促しました。そして、第三部「漱石と周辺の人々」では仙台文学館による漱石ゆかりの文人たちの展示を行い、若き日の小宮豊隆・阿部次郎らの師への思い溢れる様子が多くの関心を得ました。 漱石イヤーとしての二年間、当館では、前述の二つの展示会と政治学者の姜尚中氏による講演会等を、大学のホームカミングデー企画「漱石が私たちに遺したもの」や大学祭との連携により実施し、「漱石文庫」の存在とその重要性をPRしてきました。 東北大学附属図書館では、唯一の資料を、後世に継承し研究資料として提供するとともに、その重要性と仙台の地に存在する意味を、今後も魅力ある展示会を通じて市民の皆様に共有いただき、文化遺産継承への意識がさらに高まることを願っております。漱石文庫と仙台の不思議な縁唯一の文化遺産継承の願いを込めて人間・夏目漱石の魅力を再発見開催期間中、会場は多くの観覧者で賑わった等身大の漱石パネル告知用ポスター

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