東北大学 理学部 地球科学系
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? 東北大学理学部地球科学系4地球の環境を解読する鍾乳洞サンゴ掘削白亜系の炭酸塩岩露頭現生腕足動物殻の炭素・酸素同位体比の記録図1グアムのサンゴ記録 近年、地球温暖化問題やエルニーニョ現象などによって引き起こされる世界各地での異常気象が広く知られています。数十年、数百年先の地球環境の将来像を正確に予測することは地球科学の最重要課題の一つであり、そのためには、地球の気候を駆動する大気・海洋の動態を有史時代以前に遡って、より長期的かつ連続的に明らかにする必要があります。 石油や天然ガスは、様々な時代の岩石の粒子間孔隙や割れ目などに貯留されています。世界の巨大油田・ガス田の多くは炭酸塩岩が貯留岩となっており、その堆積環境の推定や、ドロマイトの成因などの続成史に関する研究は、資源開発において肝要です。例えば、中生代白亜紀は、大気二酸化炭素濃度が高く、地質時代の中で最も温暖な時期であり、海洋無酸素事変(海洋の酸素濃度が極端に低下した現象)が何度も起こりました。一方、白亜紀は石油や天然ガスの根源岩の多くが形成された期間でもあります。白亜系炭酸塩岩の堆積・化石相の変化や化学組成には当時の古環境情報が記録されており、それらの情報を抽出することで、極度の温暖化に対する地球環境の応答や、地球資源の形成プロセスを読み解くことができます。 地球環境は、様々な時間・空間スケールで変動しており、その移り変わりや要因を明らかにすることは、地球というシステムを理解し、その将来像を予測する上で欠かせません。造礁サンゴ、二枚貝、有孔虫、腕足動物などが形成する炭酸塩生物骨格・殻、鍾乳石や石筍、炭酸塩堆積物は、それらが形成・堆積した当時の環境を様々な形で記録しています。私たちは、それらの情報を読み解くことで、過去の地球環境を様々な時間スケールで描き出すことができます。特に膨大な熱エネルギーを蓄える熱帯〜亜熱帯海域の過去の動態を知ることは重要です。サンゴ骨格や石筍には、樹木年輪に類似した密度バンドが形成されます。それらの成長速度や化学組成を分析すると、過去の気象現象(降水量など)や数年〜数十年スケールの大気・海洋変動(モンスーン、ENSOなど)に関する連続的な記録を、過去数百〜数万年に遡って高時間分解能で復元することができます。 腕足動物は「生きた化石」の1つであり、顕生代(過去約5億4200万年間)を通じた地層から豊富に産出します。腕足動物の殻は続成作用に強く、その化学組成は過去の海水温や海水に溶けている炭素の同位体組成、pHなどの優れた記録者であり、環境変動を読み解くツールとして注目されています。私達は、様々な時代の地質調査と地層から産出する腕足動物化石の化学組成の分析を行い、数万〜数億年スケールの海洋環境変動を、信頼性高く、定量的に明らかにすることを目指しています。そして、顕生代を通じた地球の真の姿を描き出したいと考えています。炭素同位体について海水と同位体平衡で殻が形成された時の13Cの範囲酸素同位体について海水と同位体平衡で殻が形成された時の18Oの範囲地球化学生物学・古生物学年代・層位学第四紀の気候変動と地球温暖化地球環境変動と地球資源顕生代を通じた海洋環境変動11古環境プロキシを用いた古気候・古海洋環境復元地質学堆積学様々な時間スケールの地球環境変動を読み解く−日変化から数億年スケールの変動まで−

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