東北大学 工学部 材料科学総合学科 研究室紹介
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金属フロンティア工学コース Course of Metallurgy 釣り初心者だけではなく腕自慢の太公望でも避けて通れないといわれる“根がかり”。水底の岩や根株などに釣り針が引っかかってしまう根がかりは、大抵の場合、釣り針などを水中に残すことになるため、環境への影響が心配されます。 「根がかりを防ぐには、障害物に引っかかっても針の先曲げ部分が伸びてするりと抜ける機能があればよいのでは」と、研究成果であるCu-Al-Mn系形状記憶合金を使った釣り針を作製した貝沼研究室。超弾性効果(大きく変形させても変形力を除けば元に戻る性質)により伸びたあとも形が元に戻り、引き続き釣り針として使うことができます。完成後は、特性評価のために仙台近郊の釣りポイントへ。根がかりすることなく、釣果もバッチリ。Cu-Al-Mn系形状記憶合金は、ゴルフクラブ(サンドウェッジ)のフェース部分に使うアイデアも。新規材料の可能性は、海よりも深いのです。作ってみました、使ってみました。“根がかり”でガッカリを防ぐ『形状記憶合金 釣り針』研究室TOPICS9地図は旅の友、「状態図」は材料開発の頼もしいパートナー。 どこか知らない土地を旅することになったとき、私たちが真っ先に手にするのが「地図」なのではないでしょうか。“文字よりも古いコミュニケーション手段”といわれる地図は、多くの情報をもたらし、目的地へと誘ってくれます。ところで「材料」にも地図のようなものがあることをご存知でしたか? こちらは『状態図(相図)』と呼ばれ、物質の相と熱力学的な状態量との関係を表したものです。少しわかりやすく説明しましょう。金属を始めとしてセラミックス、半導体などの材料は、温度が変化すれば固体や液体といった形態が変わりますし、異なる物質を混合したとき、均一に溶け合うこともあれば、水と油のように分かれることもあります。このように温度と混合する濃度によって物質がどのような状態になるかを示したものが状態図なのです。 貝沼研究室では、実験(実験状態図)とコンピュータ解析(計算状態図)、それぞれのアプローチによって各種合金系の状態図を決定し、世界に先駆けて様々な合金の熱力学データベースを構築しました。この人類共通の英知である状態図によって、これまでいわば手さぐりだった材料開発がきわめて効率的に行えるようになります。状態図の研究は、長い時間をかけて営々と積み上げていく地道な取り組みです。そうした探索行は、時に思いもかけない新規材料との出会いをもたらしてくれます。世界で初めての遭遇……それは地図もない未知の土地を旅するエクスプローラー(探検家)にしか味わえないワクワクするような驚きと喜びなのです。社会・産業の要請に応える、“使える”材料の開発を。 貝沼研究室では、自ら決定した状態図を基に「環境調和型材料」「スマート材料」「電子材料」の開発研究に取り組んでいます。環境調和型材料としては、発電機や航空機から排出されるCO2を削減させるCo基超耐熱合金があります。また、従来広く利用されているNiTi合金(ニチノール:ニッケルとチタンの合金)にはない優れた特性(高加工性、強磁性、高温動作性など)を持つ、多くの新規形状記憶合金=スマート材料の開発も特筆すべき点です。特に、磁性と形状記憶の両方の性質を兼ね備えた強磁性形状記憶合金の分野では、現在世界で認められている10種類程度の合金類のうち、半数以上を貝沼研究室グループが見出すなど、世界を牽引する立場にあります。 これまでなかった飛び抜けた特性を誇る材料の発見は、研究の醍醐味です。しかし“使える”材料であるには、安定的な原料調達の可能性、加工のしやすさ、利用可能性、製造コストの妥当性など実に多くの条件が課せられます。真に役立つ材料を追い求めて……貝沼研究室では研究開発の視座を、社会・産業の中に据えています。材料開発の目的地へと、早く確実に導いてくれる「状態図」。世界に先駆けて決定した“材料の地図”は、人類共通の知的資産。「際立った特性を持つ材料開発」が自己目的化してはいけません。新規材料の最終目的は、世の中の役に立つことなのです。計算材料構成学【教授】貝沼亮介 【准教授】大森俊洋 【特任助教】許  皛http://www.material.tohoku.ac.jp/~seigyo/lab.html貝沼研究室

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