東北大学 文学部 学部案内 2020年度入学者用
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 「すぐに役に立つ」ことはとても大事な価値の一つです。ですが「すぐに役に立つものがすぐに役に立たなくなる」ことはよくあります。だから文学部で学ぶような「すぐに役に立ちそうにない知識」は、「すぐに役に立ちそうにないが、完全に役に立たなくなることもなさそうな知識」だといえるでしょう。日本の大学、そして文学部という制度は、歴史的に見ればわりあいに新しいものです。しかしそこで私たちが取り組んでいる「人はなぜこのように考え、行動するのか」とか「誰が、どうやってこんな素晴らしいものを作ったのか」といった問いは、「神(々)とはなにか」とか「私たちはどこから来て、どこへ行くのか」といった問いと同じくらいに古いものでしょう。対象や目的があいまいに見えるこうした問いは、実際には人々の世界観の根本をなしています。目に見えないものを意識することで、目に見えるものの価値もよりよくわかるようになるのではないでしょうか。 令和版文学部パンフレットに何かメッセージをと言われましたが、何を書こうか困っています。若い受験生を鼓舞する信念やエピソードなどほとんどないからです。私は、2年前に本学文学部に来ました。毎日広瀬川を渡り萩ホールのある森を抜けて大学に通い、新米教員として無我夢中で過ごす間に接した学生たちは、その森の空気のように澄んだ目をして、直向きにがんばる姿は風にそよぐ青葉のようだと思いました(蒸し暑い名古屋から越してきたばかりで、仙台のさわやかな気候に多少影響されたのかもしれませんが)。 現在の私の専門は実験的手法による言語研究ですが、それは日本文学を専攻した大学(学部)時代には思ってもいないことでした。自分の研究者としての道筋らしきものをぼんやりとでも持つようになるまでには時間がかかりましたし、これからまた変わるかもしれません。今大学受験を考えている皆さんは、仮に東北大文学部を受験して入学したとしても、卒業した後にも、どんな変化が起こるかわかりません。緑豊かなキャンパスで、自分だけの未知の可能性を切り拓いてほしいと思います。21MessageTohoku University, Faculty Of Arts And Letters 2020教員メッセージフランス文学専修言語学専修■■■■■■■■■■■■■■■■■■

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