鳥取大学 大学案内2017
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77脳発達にもたらす有害作用解明に挑む。 脳は、妊娠初期~出生~成熟期に至るまでの長い期間をかけて発達していくが、特に胎児・新生児期は大事だ。「血液脳関門」が未熟で、化学物質などの外的因子から影響を受けやすく、成熟期では有害作用が生じない量であっても深刻な脳障害を引き起こすことがあるからだ。杉山晶彦准教授は、化学物質が胎児・新生児の脳の発達にどのような有害作用を及ぼすのか、その発現機構解明の研究に取り組んでいる。 注目したのは、「メトトレキサート」という化学物質。抗がん剤として広く用いられている医薬品だが、健康上不可欠な栄養素である葉酸の代謝を拮抗する作用を持っており、胎児・新生児ラットに投与すると未熟な血液脳関門を通過して脳の形態や機能に異常が発現することが明らかとなった。さらに研究を進めていくと、胎児の成長段階によって病気の重篤度、病変が出る脳の部位が異なるという結果も得られたのだ。「興味深いことに、それが1日2日の差で実にダイナミックに変わるんです。小脳に出たかと思えば、次の日は大脳というように」。発達途上の脳が持つ感受性の高さに驚き、メトトレキサート曝露のタイミング・感受性の強弱・病変が生じる部位等との関係性を細かく分類して丁寧に調べている真っ最中だ。 「メトトレキサート投与による葉酸欠乏でうつ病が誘発されるという報告もある。こころ(高次精神機能)や行動への影響に関する研究も進めたい」と、既に次の目標も。探究心はますます燃えさかっている。実験も人生も、「予想外」があるからこそ面白い。 「研究が趣味」と口にするほど、実験に明け暮れる毎日を心から楽しんでいる。しかし、獣医生理学を専攻していた鳥取大学農学部獣医学科在学中は研究や実験の面白さが分からず、「僕は研究者に向いていない」と思っていたという。 そこで就職先に選んだのは地元・大阪の公務員。食肉衛生検査所に配属、食肉になる前の牛・豚の病理検査の仕事に就いた。解剖して標本をつくり顕微鏡をのぞいて病気に診断をつけるのだが、病理学は全くの専門外で、なかなか充足感を得られずにいた。ところが4年目のある日、豚の病理検査で見たこともない病変に出会う。好奇心に駆られ、大学や専門機関の研究者にサンプルを送って助言を求めたり、自分自身でも調べを進めていくうちに病理学の奥深さ・面白さに気付いた。心の奥深くに眠っていた探究心がムクムクと目を覚まし、それから獣医病理学を独学で猛勉強、仕事で出会う病変を材料に研究を重ねていったという。 旺盛な研究意欲が目に留まり、公務員から一転、逸れたはずの研究者の道を母校で歩んでいる。紆余曲折の道のりを、准教授は「予想外の人生を楽しんでいる」と笑う。実験の現場でも「予想外」はつきものだ。しかし「予想外=失敗」ではない。「“予想外の結果”は私の喜び。そこには新しい気付きや発展があるから。学生たちも“予想外”で学べる人になってほしい。うっとうしがられるからあまり言わないですけどね」。優しい瞳でまた笑った。化学物質の脳の発達への有害作用解明を通じて次世代のこころを守る。西原 英治杉山 晶彦農学部農学部共同獣医学科 准教授杉山 晶彦AKIHIKO SUGIYAMAhttp://staff.muses.tottori-u.ac.jp/sugiyama/1971年、大阪府生まれ。博士(獣医学)。96年、鳥取大学農学部獣医学科卒業後大阪市役所に入庁、環境保健局食肉衛生検査所に配属。牛・豚の病理検査で出会った病変を材料に研究を続ける。2006年、鳥取大学農学部獣医学科へ。10年より現職。日本獣医学会、日本獣医病理学専門家協会、日本毒性病理学会に所属。趣味は読書と映画鑑賞。「何かをつかめたら」と、人の生き様が描かれた作品を好んで見る。08File No.Super Teacher

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