宇都宮大学広報誌 UUnow 第40号
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東北大学と直径約5キロ圏の中にすっぽり入るような高校の出身だった私は、どちらかといえば保守的な人間でしたので、高校のバスケットの部活帰りに大学付近を通ると、おぼろげながら「このままここに来られると楽だな」と思って東北大に入りました。そのまま大学院へ進み東北大の研究所で3年間助手をしましたので、宇大に赴任して初めて外の空気を吸ったようなものです。研究室時代は野球をやったり芋煮会をやったり、遊びの思い出のほうが多かったですね(笑)。「研究所でそんなに楽しくやっていいのか!」などと言われておりましたが、何しろ私たちは学生だったのでそんなことおかまいなしで楽しんでいました。自分の研究についてですが、当時三人の恩師にいろいろと指導していただきましたが、自由に研究をやらせてくれて、研究に対する接し方や考え方なども、「君はどう思うの?」といつも学生の主体性を大事にして指導していただきました。ベーシックなことをコツコツ11●UUnow第40号 2016.7.20です)を使い原料溶液を急速かつ均一に高温加熱することで、5〜10分程度の短時間で直径30〜50ナノメートル程度のサイズの揃った銀ナノワイヤの合成に成功しました。この銀ナノワイヤを精製後、水やアルコールなどの液体に入れると簡単に分散してナノワイヤインクが作れます。このインクをPETフィルムに塗り、室温で乾燥後油圧プレスすると、フィルムを折り曲げても剥がれないほど強くて透明性の高い導電膜が出来ます。この材料はフレキシブルなタブレットなどの配線に使われることが期待されています。■ナノ流体:熱を良く伝える液体先ほど示したように、ナノワイヤインクを乾燥させると電気をよく流す膜が出来ます。電気がよく流れる材料の多くは、熱を効率よく伝えることが可能です。短時間に多量のナノ材料を得る技術を使えば、ナノ材料を分散させた液体も多量に作れます。機械油などの熱媒体にナノ材料を分散させることが出来れば、熱の効率的な輸送が必要な分野における新たな伝熱媒体(ナノ流体)としての応用が期待されます。そこで私たちは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)から委託を受け、高性能熱輸送媒体としてのナノ流体に関する研究開発を行っています。銀ナノワイヤ、ナノ流体を循環型液冷装置の冷媒として用いた初期の実験結果からは、同じ流量ではナノ流体の方がヒーター表面温度を下げる効果があること、同じヒーター表面温度にするのには8割程度の流量で十分であることがわかります。現在は金属、金属酸化物や炭素系などのナノ材料を各種熱媒体に分散させたナノ流体の合成とその熱輸送特性評価を、実験、理論及び実用化の観点から企業、産総研及び他大学の機械・伝熱系の先生方と共同で実施中です。■ナノインク・ナノ流体の実用化を目指して本学応用化学科の学生さんは化学大好き&物理苦手なタイプが多いのですが、運悪く?ここで示した研究テーマに当たってしまった学生さんは大学院修了後、化学、電池、非鉄金属、印刷関連といった研究テーマに関係した「化学っぽい」企業だけでなく、電子部品、自動車部品関連など研究テーマに関係はしているが「化学っぽくない」企業にも多数就職してます。ひょっとしてこの研究にハマってその道に進んだのか?という希望的観測は抜きにして、彼ら彼女らとあーでもないこーでもないと議論しながら、液体で使えるナノ材料の実用化に向けて研究を進めています。ベーシックなことをコツコツと積み重ねるやらせてもらったことがためになっています。野球でいうと素振りとか投球練習をやっていたイメージですね。 その頃、いろいろ研究についての学術書をそろえましたが、いまだに同じ本を読みながらあの頃の研究を延々と続けています。当時はそんなことは思ってもいなかったのですが、大学時代に今の研究のベースがあったということです。今思うと非常にラッキーでした。もちろん細かな失敗はたくさんありました。実験中寝過ごして翌朝になっていたとか、装置を止めるのを忘れたとか、今思うとかなりヒヤヒヤものでした。それでも、コツコツ積み重ねて何かしらやれば何かしら結果は出てくるものです。時には一日半くらい続けて実験をやるので、実験室に寝泊まりしながら「あと一時間だなぁ」と、カップラーメンをすすり……、研究室時代の思い出はいろいろあります。東北大から宇大に移るときに、職場環境も変わるし多分同じ研究はやらないかなと思っていましたが、いざ来てみると実は宇大ではこの手の研究をやれる環境が整っていて、装置も全部そろっていました。悪運が強いのかな?ある意味で有り難いことでした。宇大は学生と教員の距離が近いので僕の学生時代と雰囲気は似ていますが、今の学生たちの方がまじめではないでしょうか。今や宇大に来て20年、すっかりここが居心地よくなってしまいました。    佐藤 正秀 大学院生時代、研究室の恩師と仲間たちと松島旅行。(前列右端が佐藤准教授)(取材・文/アートセンターサカモト・栃木文化社ビオス編集室)ナノ流体循環液冷実験装置とヒーター冷却温度の比較

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