宇都宮大学広報誌 UUnow 第40号
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人が出されたカレーを2杯、3杯とおかわりしたため『宇大生はカレーが好き』という評判がたち、(他の学生が泊まった)どこの農家も食事はカレーになった」と笑う。英文の原書で農業経営学を学んだ同郷の教授の特別ゼミ、農業経済学、農政学、会計学、農業史……それぞれの担当教授の名前を挙げ、「大学は何をするところか、今でも課題になっています。研究するところ、教育するところ、いろいろあると思いますが、農業経済学科は、教育が強かった、しっかりしていたという印象です。今にして思うと、バリバリのすごい先生たちがいました」と語る。■農山漁村の生活の質の向上に資する農水省入省のきっかけは教授の勧めだった。「とにかく『公務員試験を受けなさい』と。当時、農水省は農業経済職を採用していました。試験の時期、友だち4人と車で東北一周旅行を計画していましたので、一次試験を仙台会場の東北大宇大学生時代の櫻庭氏(1979年頃、自室にて)しっかり伝えて対処していかなければいけませんね」■地域と一緒に育っていくという視点2012年、農学部90周年記念式典に招かれ、自ら関わった農業白書をテーマに講演した。母校への思いを「僕らの時代に較べて新しい学部ができたし、専攻も変わってきていると思いますが、地域住民がいかに幸せになっていくのか、質の高い生活を送っていけるのかということを考えるのが地域の大学の最大の命題学で受けました」という。中央省庁に陳情に行った経験のある公務員の父親から霞ヶ関の役人の仕事ぶりは聞いていた。もう一つ農水省を志した理由があった。実家は兼業農家で、父親が稲作の農薬散布で皮膚がかぶれてしまう姿を目にし、「なぜ、かぶれるものを食べ物にまくのか。農薬や化学肥料は極力少なくすべき」という思いがあった。「実際に役所に入ってみると、雨が多く虫が発生しやすい気候風土の中で丈夫な食物をどう育てていくかが最大の関心事になるのですが、基本は農薬を減らすべきという流れが世界的に出てきている。そういうものをみんなが求めていたのだと思います」役所が正面から向き合うことが難しいテーマは「場外」と自ら表現するフィールドに手がかりを求める。無農薬リンゴの栽培に成功し『奇跡のリンゴ』として話題を呼んだ青森のリンゴ農家、木村秋則さんたちと無農薬、自然栽培の問題に取り組む。今、力を入れている施策は6次産業化の推進だ。「米、野菜、果物をそのまま出荷するのではなく付加価値を付けて消費者の皆さんに届ける。1次産業に携わっている人が単なる生産者だけではなくて、生産物の価値をつくっていくクリエイターの一翼を担う」。それが「農山漁村の雇用を増やし、所得を上げることによってそこに定住する方々の生活の向上に資する」という大きな目標につながる。世界に約8億人いるといわれる栄養不足人口の解消も重要なテーマである。「政府と民間企業が一体となった栄養改善に向けた取り組みを仕組んでいます。食べ残しなど日本の食品ロスは世界全体の食料援助量より多い。そういうことを3●UUnow第40号 2016.7.20◆取材を終えて国際学部4年 伊勢万梨乃国の政策に関わるような方へのインタビューということで緊張していましたが、実際にお会いすると柔らかい雰囲気で私達を迎え入れてくださいました。普段聞けない国会の裏側などのお話も教えてくださり、私にとって貴重な経験となりました。農学部3年 後野仁奈今回取材を受けてくださった櫻庭さんは農業経済学科を卒業した方で、私の先輩にあたります。初めてのインタビューでしたので緊張しましたが、櫻庭さんはとても気さくに、楽しそうにお話してくださったので、リラックスして取材をすることができました。櫻庭さん自身のお話だけではなく、6次産業化や今後の食についてなど様々なお話を聞かせていただき、大変勉強になりました。今回の経験を、今後の学生生活に活かしていきたいです。*このインタビューは櫻庭氏が食料産業局長在職時の平成28年3月28日に行われたものです。【インタビュー:伊勢万梨乃・後野仁奈/文・写真:アートセンターサカモト・栃木文化社ビオス編集室】 だと思います。地域と一緒に育っていくという視点は忘れないで欲しい」と語る。そして後輩たちへのメッセージ。「大学のテストには答えがありますが、社会生活には答えがない。答えのない世界にどう向かって行くのか。自然科学系でアプローチするのか、僕らのように社会科学でアプローチするのか。個々人の考えを尊重しながら、いろいろな方法でアプローチしていって欲しい」「私は、答えのない世界をずっと歩いてきました。今でも無我夢中なところがあります」

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