宇都宮大学広報誌 UUnow 第41号
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UUnow第41号 2016.11.20●10■ロシア私の研究分野はロシア文学です。ロシア文学の専門の研究者が扱う時代は中世から現代まで様々ですが、私は19世紀を中心に、実際には18世紀から20世紀までを射程に入れて研究しています。ロシアは日本にとっては隣の国ですが、隣国という意識をあまり持っていない方は多いかもしれません。ロシアというとモスクワ、サンクトペテルブルクなどのヨーロッパ・ロシアのイメージが強いと思います。しかし、日本から海を隔てた向こう岸もロシアなのです。現代の日本人とロシア人同士の直接交流はもちろん大事ですが、日露間には、長い文化交流の歴史があります。文化交流、研究を通じて、多層的な理解を試み続けるのも重要です。そのために少しでも役に立てればと思っています。■「文学」「文化」私がロシア文学の道に進んだきっかけは、ドストエフスキーを読んだことです。ドストエフスキーは「暗い、重い、長い」と思われていますが、軽やかなタッチの恋愛小説もありますし、長編にも犯罪小説のようなエンターテインメント性の強い作品が多くあります。ぜひ新訳などでチャレンジしていただきたいと思います。私はドストエフスキーの研究をした後、ゴーゴリというドストエフスキーよりも少し前の時代の作家に関心を持ち、研究を続けています。ゴーゴリは、日本ではそれほど有名ではないかもしれませんが、ロシアでは庶民の間で人気の高かった作家です。ゴーゴリは幻想小説、民話風、戯曲など幅広いジャンルを手がけました。「ロシア」「文学・文化」「香水」PROFILE東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。専攻はロシア文学・文化。青山学院女子短期大学、東京大学非常勤講師を経て、現職。国際学部国際文化学科 講師 大野斉子おおの ときこ国際学部国際文化学科 講師大野 斉子一点ご紹介しますと、ある日、役人の顔からとれた鼻が首都ペテルブルグを人間のように動き回り、鼻を追う役人と珍事を繰り広げるという奇想天外な小説『鼻』があります。私は、ゴーゴリは19世紀にどんなメディアで読まれたのか、という研究をしました。こういう問題設定をすると、19世紀のメディアの特徴、読者層、メディアが実現したネットワークなど、文学の出版と読書の現場が見えてきます。またメディアは、掲載される内容だけでなく、メディアが存在した社会のインフラ(郵便網や鉄道網)、教育制度や生活文化と深く関わっています。メディアの研究からこうしたことも見えてきます。つまりは、時代や社会の変化に応じてどのように文学の読まれ方が変わったのかということがわかってきます。文学や芸術は、個人を超えた社会、集団の想像力を扱うことのできる技芸です。些末な事柄も含めた日常をひとつの世界としてまとめあげているのは、想像力の領域です。文学を研究することで、世界を作っていたはずの想像力を作品から取り出してくることができるし、もしかしロシアの古都サンクトペテルブルクにある「エルミタージュ美術館」ゴーゴリの作品のイラスト・ブック

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