□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□本年度の愛知県立大学「科学研究費補助金(以下科研費)」において、『基盤研究(B) 』に新規採択されました久冨木原玲先生と山本理絵先生にお話を伺いました。□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ □□□□久冨木原 玲 (くふきはら れい )̶ 今回採択された研究内容についてお聞かせください。久冨木原:私の研究は、ひと言で申しますと「俳句という窓を通してブラジルと日本の文化をつなぐ」というもの。日本で生まれた俳句は、いまや世界各地で親しまれる文化となっています。とりわけブラジルの俳句文化は、世界でも例を見ないユニークさで異彩を放っているのですが、そのことに日本人はもちろんのこと、ブラジルの人々も気づいていません。そこで、俳句を通じた異文化の相互理解と交流、そしてそれを日本、世界へと発信していくことをテーマとしました。̶ 研究はいつ頃から取り組まれましたか?久冨木原:2016年にサンパウロ大学の客員教授として約3か月間滞在したことが研究の契機となりました。その際の私の講義テーマは『源氏物語』でしたが、実際にブラジルの人々と接して「こんなに俳句が盛んだなんて!」と驚かされました。たとえば小学校では、芭蕉の俳句を絵と音楽で表現するという授業をするんです。まず音楽だけ聴いた際、すぐに「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と気づきました。音楽は言語を超えると同時に言語をつかむのですね。 わずか17文字の俳句なら子どもたちでも楽しめますし、「ブラジルの多くの人とつながるには『源氏物語』よりも俳句だ!」と(笑)。実際に俳句がどのように楽しまれ、生活に浸透しているのか知りたいと、研究を始めました。̶ まさに愛知県立大学のビジョンのひとつでもある「人をつなぎ世界を結ぶ」を実践されたというわけですね。久冨木原:気持ちはそこを目指したいと思っています。こちらはブラジル人がポルトガル語で創った句集で、日系人の方が五・七・五の俳句形式で翻訳をしています。もう一冊は、『俳諧とパフォーマンス』という研究書。日本の俳句の解釈を演劇仕立てのパフォーマンスで、しかも街の路上で行っています。どちらも世界のどこにもないブラジル独特の魅力的な表現。ブラジルの最新の俳句研究書としてぜひ紹介したいと思い、著者やサンパウロ大学の先生などにご協力いただきながら、解説・紹介しました。インタビュアー 海外に伝わった俳句は、私たち日本人が考えるよりもずっと多彩な芸術と関わり発展しているんですね。むしろ逆輸入することで、国内の俳句文化もさらに豊かになっていくのではないでしょうか。山本:私のテーマは、「多様化社会における教育と社会福祉の連携による生涯発達支援に関する総合的研究」です。国籍・民族的アイデンティティ、障害、経済的貧困、性的マイノリティ等、多様性を受け入れる社会の中で、一生涯を通した発達支援において、教育と社会福祉がいかに連携していけばいいか、その効果的な支援方法および支援システムを明らかにすることを研究目的としています。̶ こちらも本学の「いのちの学びと探究」というビジョンに通ずる研究ですね。山本:そうですね。主に次の4つのテーマ(課題)があります。 ①多様なニーズをもつ子どもの支援、②経済的困窮家庭の学習・生活支援、③愛知県内の外国人・異文化高齢者の支援、④移民教育・社会保障・就労支援等において先進的なドイツ・韓国などのシステムの調査です。 ①については、名古屋市からの委託による発達支援に携わる職員向けの研修プログラムの作成事業とリンクさせながら実施。医療的ケア児今年の注目研究インタビュー1985年3月、東京大学大学院人文科学研究科博士課程中途退学、2006年に本学に赴任。源氏物語を中心に研究。10年ほど前から海外で源氏物語の講演や講義を行なってきたが、65歳の時、サンパウロ大学滞在中にブラジルの俳句の魅力にとりつかれ、その共同研究を開始した。愛知県立大学 学長愛知県立大学 教育福祉学部 学部長 大学院人間発達学研究科長 教授学術研究情報センターセンター長/宇都宮みのり(左)研究推進局局長/神谷直希(右)日本人移民とブラジル人が育んできた世界のどこにもないブラジルの俳句文化国内における多様化社会、マイノリティ支援に一石山本 理絵久冨木原 玲 より広く豊かな智を求めて個から協働・共生の時代へ
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