本学の研究水準を示す客観的指標の一つに触れたい。国公私立すべての研究機関に属する日本国の科学研究費の領域で、本学の教員は奮闘していた。本学の2000年度の新規採択率38%強という数値が、全国の膨大な研究機関中第5位になったという文部省(当時)通知は本学の大きな驚きと喜びであった。この水準は、2001年度から2003年度に至るまでの33件、31件、32件という合計採択件数に継承されている。このうち人文科学の全分野について、国立情報学研究所のデータベースNACSISに基づく算定結果によれば、本学は、1998〜2002年度の通算で、全国788の研究機関中第51位、公立大学中第3位であった。 本学は、この2003年4月、在学の学生数が大学院生を含めて3000人以上の規模をもつに至った。公立大学協会・21世紀の公立大学の財政のあり方検討会は、5つの外形的指標に基づく分析により、本学を公立の12の大都市圏総合大学の一つに位置づけた。ちなみに、現段階における自己規定では、本学は「四年制学士課程を基軸とし、大学院で高度職業人養成を併せ行う、公立の複合型大学」である。(4)本学の課題 しかしながら、私たちには克服すべき課題もまた多かった。本学は、学生の気分をも含む学内外の事態を冷静かつ客観的に把握するという側面、及び外部からの提言や批判を謙虚に受け止めて自己を不断に改造するという側面においては、きわめて不十分ではなかっただろうか。 この状態を突破するためには、本学の構成員が、その関心を各個人と各学科の外にも向け、大学という一つの自立的な組織体としての自覚を飛躍的に高め、自己点検・評価、学外評価及び第三者機関の評価などで既に明らかにされた諸課題を解決していく必要があった。 本学が地域社会に貢献し得る二十一世紀の公立大学として大きく成長させ得るかどうかは、この点にかかっていた。典拠:「大学が大学であるために」『愛知県立大学学報』第47号(2003年5月31日)Ⅴ.愛知県立大学における地域連携・地域貢献(1)移転・開学6年目に設定した課題としての地域連携・地域貢献 私たち愛知県立大学では、ここ長久手キャンパスに移転した1998年度以来、その時々の本学にとってもっとも切実な課題を設定して、自己点検・自己評価を実施してきた。移転当初に設置した課題は、「移転拡充」(1998)、「教育・研究活動」(1999)、「昼夜開講制」(2000)、「教育・研究活動の総体及び全教員の研究業績・教育活動・20Ⅳ.大学が大学であるためにー公立大学法人化と愛知県の方 針提示の情勢の中で(1)本学の存在意義の再確認 2003年4月25日、公立大学の法人化に関する特例を含んだ地方独立行政法人法案が閣議決定され、国会に上程された。法案の帰趨はその後の審議に委ねられたが、成立した場合、本学の設置者としての責任をもつ愛知県と本学とは、いずれ法人化の途を選択するのかどうかの判断を迫られることになる。 かつて、私たちはこの長久手キャンパスへの移転・拡充を構想し、設置者愛知県と長期にわたる交渉を行い、1998年にそれを実現した。しかし時代は大きく変わった。愛知県の財政状況の危機の様相が持続する中で、地方自治体必置の施設ではない大学が新たに将来を模索する条件は厳しさを増していた。2001年、愛知県は行政改革の一環として、県立の大学の地方独立行政法人化をも視野に入れることを明示し、まもなく愛知県が県立の三大学の今後のあり方についての検討を開始することが予測された。(2)大学が大学であるための条件と公立大学 大学の任務は学生から豊かな人間性と基礎学力を引き出し、自主的に活動する主体を育て上げることにある。大学がこの意味での大学であるためのもっとも大切な条件は教育研究の自由である。上記の地方独立行政法人法における「公立大学法人に関する特例」の章で、設立団体は「公立大学法人が設置する教育研究の特性に常に配慮しなければならない」と特に規定しているのは、この条件が不可欠だからである。この場合、大切なのは、教育研究の特性を支えるものとしてのこの学問の自由は、教育研究の私物化とは相容れないことである。 学問の自由とは、広く国民が、あるいは地域住民が、学生を自主的に活動する主体に育て上げ、真理を追究し、真実を知るためにこそ大学に付与されてきたものである。すなわち、学問の自由は国民、あるいは地域住民のためのものである。したがって、研究テーマの設定、カリキュラムの編成、教員定数・ポストの配置などを決めていく際にも、国民や地域住民への貢献につながる大学としての基本方針がまず策定されなければならないであろう。 公立大学協会では、二十一世紀を迎えるに当たり、今後の公立大学の進路を「分権時代の公立大学」と集約した。地方分権が進めば進むほど、地方公共団体を設置者とする公立大学は地域社会への貢献を強く要請されることになろう。(3)本学の研究・教育の現有力量―地域貢献の条件
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