愛知県立大学 新大学誕生10周年・長久手移転20周年記念誌
34/96

瀬野 由衣 教育福祉学部教育発達学科 教員(文学部児童教育学科 卒業生) 私が愛知県立大学に入学したのは、大学が長久手市に移転した2年目のことでした。それから20年たち、特に今年度は波乱の幕開けとなりました。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、教育の在り方そのものが根底から問われる事態になっています。この原稿を書く機会を頂いたことを一つのきっかけにして、私が卒業した当時の児童教育学科(現、教育発達学科)での学びのこれまでを振り返りつつ、今後について考えてみたいと思います。 私が在学していた時は、授業に行ったら「休講です」という事態も「そういうこともあるよね」という、ゆるやかな時代でした(笑)。もちろん、UNIPAなどありませんし、履修登録も紙媒体が当たり前です。藤が丘の駅から名鉄バスで通学していた日々が懐かしく思い出されます。 当時を振り返ると、どの学年にも様々な背景をもった多様な年齢層の方がいました。塾を経営している人、主婦をしながら学ぶ機会を求めて大学に来た人、昼間に小学校教諭や発達支援の仕事をしながら夜間主に通う人などです。特に夜間主の授業が開講されていたこともあって、様々な人たちが、一緒に学ぶ土壌があったように思います。どの人も「学びたい」という意欲に溢れていました。学ぶことに関して、年齢差も上下関係もない、共に育ちあえる関係がありました。大学を卒業してすぐに就職する以外の道(大学院に進む道)が拓けたのは、先生方はもちろん、県大で出会った仲間がいたからです。その中の人たちは、今でも先輩であり、親友であり、仲間であり、一言では形容できない特別な人たちになっています。 私の同世代で児教を卒業して教員をしている友人が、少し前にこんなことを言っていました。「教員免許更新講習を他の教育養成系大学と県大の両方で受けたが、やっぱり県大は県大だーと思って嬉しかった」とのこと。詳しく尋ねると「「子どもの権利」「貧困」など、福祉的な視点を含んで子どもを取り巻く状況を考えることが、改めてとても新鮮だった」というのです。「根本的に大事なことを考えられるのが県大だと思った」とも話していました。当時はそのこと自体がある意味で当然で、他大学での学びと比べることもなかったのでしょう。いったん離れてみて、初めてわかることもあるのかもしれません。 ちなみに、私の友人の中には、教育と全く関係のない仕事に一度就いた後、「やっぱり教員になる」と教育職に戻ってきた人がいます。30代半ばを過ぎてから福祉の道を志した友人もいます。彼女たちが「県大で学んだことがどこかで残っているんだよね」と話していたことは印象的です(何を覚えているかという話になると、先生方の余談でおもしろかったことなどが出てくるのですが・・・)。紆余曲折を経ながらも、学んだことが身体に根づいている、そういう学びが県大にはあるのだと思います。 現在、教育発達学科は、小学校教育コースと保育幼児教育コースに分かれています。教員養成、保育者養成に特に力を入れているため、当時のように多様な背景の人たちが集まりやすい学科の構造にはなっていません。どのような学びをいかに深めていくのか、学びのカリキュラムを作っていくことが学科全体の課題となっています。実質的には大学院生のために夜間授業が開講されている昨今、意欲をもった社会人は、大学院に集まってきています。大学院生と学部生が垣根なくつながりあう機会を作っていくことも課題でしょう。年齢差、時に文化差を超えて一緒に学ぶ仲間ができると、学生たちの人生観は大きく変わると思います。 私自身は、特に今年度は、遠隔授業に四苦八苦しています。実際に実施してみて、遠隔授業には、これまで見えにくかった個々の学生の学びの深まりや到達度を細やかにみることができる利点があることもわかりました。通学することが精神的、身体的に苦痛となる学生にとって救いにもなるでしょう。今後、遠隔授業のノウハウを授業に取り入れていくことは必須だと感じます。一方で、遠隔授業だけで私が学生時代に得た身体に残るような学びはなかなか得られないようにも思います。同じことを実際に対面で伝えるのと、画面を通して伝えるのでは手応えが違うのです。授業の受け手も同様のことを感じているのではないでしょうか。ライブで実施しているとはいえ、ゼミで雑談がしにくいのは、学生にとってもしんどいですよね。 大学生活はどうでしょうか。休憩やお昼時間、空きコマ、通学中のおしゃべりなどの「余分な時間」が根こそぎ奪われる学生生活は、効率的かもしれませんが味気なさが残ります。「余分なこと」が知らぬ間に蓄えられ、自分の栄養になっていたことに、この年になって改めて気づくからです。今だからこそ、改めて、非効率性の中にある大事なことを問い直し、そのエッセンスを大切にする生活と教育の在り方を考える必要があると感じています。 32県大での学び:受け手から送り手となった今、考えること

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る