愛知県立大学 新大学誕生10周年・長久手移転20周年記念誌
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卒業生・教職員からの寄稿加藤 義信 元教育福祉学部教育発達学科 教授 2004年4月から2011年の3月まで、文学部長を3年、学術情報センター長を2年、教育福祉学部長を2年、務めさせていただきました。 2004年4月は、ちょうど佐々木雄太先生が新学長として愛知県立大学に着任された時にあたり、以来、私は7年間、先生のもとで学部運営・大学運営の仕事に携わることになりました。ちょうどその頃は、既に全国的には国立大学の法人化や他都道府県の公立大学の再編やダウンサイジングの具体化が進んでおり、当時、財政危機の最中にあった愛知県でも、県立大学をめぐっての同様の議論が、前年夏には有識者による「県立の大学あり方検討会議」の立ち上げとともに、開始されていました。これ以後2年ほどの間、この会議を含めてさまざまな場で、とりわけ私が当時所属していた文学部の存在意義が、中でも国文学科、児童教育学科、社会福祉学科の存在意義が、次々に問われていくことになります。 私が学部長になって、まずしなければならなかったのは、この「あり方検討会議」の準備会として月1〜2回の頻度で定期的に開催されていた、県庁での打ち合わせ会議への出席でした。ここでも、県庁職員からは県立大学の文系学部の存在意義について、厳しい言葉が語られました。その中でも、思い出すのは、次のような議論でした。 周知のように、愛知県は「ものづくり先進県」としてのプライドがあり、そういった産業振興策の延長上に、大学の存在意義を考える傾向が、かつては顕著に認められました。会議の中でも、例えば県のある部局からは、「これからのモノ作りは、物質としてのモノだけでなく情報を含めた見えないモノ作りの時代だ、愛知でもそうしたコンテンツ産業を育てたい」と言った発言が飛び出したこともありました。こうした発言は、その担い手養成として情報科学部に期待を寄せる善意の意味で語られたに違いありません。しかし、正直なところ、私は少なからずこれに違和感を禁じえませんでした。なぜなら、「コンテンツ」とは、情報技術である前に、何より「それは文化」だ、と強く思ったからです。  どんな情報も中身あってこその情報です。伝達手段としての情報技術がいかに優れていようと、中身が人を引きつけなければその情報には意味がありません。その中身には、生活の物質的改善に役立つ知識(まさに産業振興に資する道具的知識)もあれば、私たちの心の生活の質を豊かにする文化的生産物もあるでしょう。実は、地域における後者の蓄積の維持・発展を図り、その新しい時代のクリエイティブな担い手を養成するのが、人文系学部の役割のはずです。例えば、いくらパソコンのゲームソフトやアニメの映像が技術的に進化したとしても、その核心はやはり「物語」としての面白さです。それは文化的価値の蓄積を大切にする風土の中でしか、生まれようがありません。 私は、愛知県が「文化」を大切にする自治体であってほしいと願いました。これからの21世紀の成熟社会では、文化的価値の産出が産業の一翼を担うようになり、そのためにも、県立の大学の文系学部を大事に育ててほしいと願いました。当時の文学部のそれぞれの学科は、そのような視点も織り込んで、自らの存在意義を必死になって県にアピールする作業に、取り組んでくれました。その結果、英文学科は外国語学部の英米学科に合流することになりましたが、残りの国文、日本文化、児童教育、社会福祉の4学科は、それぞれ2学科ずつ日本文化学部と教育福祉学部に分かれて、発展的に生き残ることができました。 それが単なる横並び縮小化による現状維持的生き残りでなかったことは、さらに教育福祉学部の上に、博士後期課程までも備えた人間発達学研究科が順次、設置されていったことを見ても、明らかです。 もちろん、夜間主コースの廃止や各学科の教員定員の削減など、犠牲を払わざるをえなかった側面もありました。しかし、当初、「縮小再編」は不可避と考えられていたところから出発して、2009年の時点で長久手キャンパスの学部数は3から4となり、すべての学部に高度な学問研究が可能な大学院への進学の道が開かれている体制も整備されたことは、今日に至る県立大学発展の大きな礎になりました。 「学部・学科再編」がこのような結果に落ち着いたのは、当時の佐々木学長のリーダーシップによるところが大きかったと思います。県から求められた県立大学の地域貢献力の向上を、大学全体としての研究・教育力の底上げの上に考えるという戦略が、先生の中ではぶれることがなかったからでしょう。  愛知県立大学が、これからもいっそう、ワクワクする学びの場であり続け、学生も教職員も、一人一人がそれぞれに「背伸び」をして自己実現を図れる場となっていくことを、願ってやみません。41「学部・学科再編」と向き合った7年間

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