愛知県立大学 学報 2021-22 vol.9
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在名古屋ブラジル総領事との鼎談 かつて愛知県の多文化共生推進室に勤務し、ブラジル出身者と深い関わりをもつ木佐貫次長から、「いのち」に関わる経験が一つのきっかけとなり、愛知県とブラジル人コミュニティとの関係がより密接になったことが語られました。それは、2010年から2011年にかけて取り組んだ「あいち医療通訳システム」の立ち上げ時に、医療機関の緊急要請で通訳派遣を行い、ブラジル人の子どもの命を救うことができた経験です。その際に、次長は外国籍住民のコミュニティとの関係深化には、外国籍住民が抱える問題に取り組む人びととの協働が重要であると改めて感じたと言います。この医療通訳システムの立ち上げには、2007年度に本学が学外向けに開設した「医療分野ポルトガル語スペイン語講座」を担う教員も加わりました。木佐貫次長と川畑副学長が最初に活動を共にしたのもまた、このシステムを開始するための通訳者養成講座でした。この時、木佐貫次長は愛知県の責任者として講座全体の運営を担い、川畑副学長はポルトガル語とスペイン語のネイティブ講師の選定と受講者の日本語力の審査を担当したのです。多くの大切な命をつないできた「あいち医療通訳システム」は現在もなお、大切な役割を担っていますが、その誕生の裏には、愛知県と本学をつなぎ、動かす力となったブラジル人コミュニティの存在があります。ネイ総領事はブラジル人コミュニティについて、ポルトガル語と日本語が堪能なバイリンガルが多く、自分が名古屋に着任する以前からコミュニティ内では、日常生活に必要なサービスを提供するための活動が組織され、すでに様々なネットワークができていたものの、総領事館とコミュニティとの関係には依然として距離があり、医療通訳などの生活上の課題について自国出身者に思うような支援を提供できない現実もあったと言います。その意味で、愛知県によって医療通訳システムが確立されたことの意義をとても評価しています。在名古屋ブラジル総領事館との関係を大事にしてきた木佐貫次長について、ネイ総領事は「多くの人や団体がブラジル人コミュニティに関わる姿を見てきたものの、木佐貫次長ほどブラジル出身者のために奔走して下さる人はいなかった」と、自分の着任当時を振り返りながら述べました。2022年度に新設される本学大学院国際文化研究科国際文化専攻の「コミュニティ通訳学コース」は、愛県大が愛知県やブラジル人コミュニティ、さらには在名古屋ブラジル総領事館を巻き込んで重ねてきた成果と実績に基づいて構想されたものなのです。 2021年7月18日、在名古屋ブラジル総領事館と本学が共催して「第1回サイエンス・フェア」を本学長久手キャンパスで対面開催しました。実現に至るまでにはコロナ感染症拡大によって、何度も延期を余儀なくされていました。「サイエンス・フェア」とは、科学に対する子どもたちの興味を引き出す教育的な取組みですが、日本にあるブラジルの在外公館が毎年開催する「教育フェア」とは違って、ここにはネイ総領事自身の特別な思いが込められていたのです。――日本に住むブラジル籍の子どもたちに、日本で学び、日本でも、より良い将来像を描くことができるんだよ!というメッセージを伝えたい。だからこそ、このフェアが「大学」という学びの場所で開催され、参加する子どもたちが大学の雰囲気を実感できることに大切な意味があるのだと――川畑副学長によれば、本学はネイ総領事の人間性に満ちた思いを共有したからこそ、共催の決定をしたとのことです。感染症対策による厳しい制限の中ではありましたが、ネイ総領事はこのサイエンス・フェアで子どもたちが非常に満足していたことに触れながら、「総領事館との連携を通じて、愛知県立大学が大学として引き受けることのできる大切な役割を、広くブラジル出身の人びとに伝えていく機会でもある」と述べて、このフェアが継続されていくことを願っていました。 当日参加した木佐貫次長も、ネイ総領事のこのことばに深く共感しつつ、この企画によって、ブラジル人学校の児童生徒や関係者が本学に来てくれることの意義を強調しました。ブラジル人学校の出身者のうち進学するのは約3分の1、そのうち日本での進学は3%、ブラジルの大学への進学は10%と、いずれもごくわずかであるという現状について、木佐貫次長は、言語上「いのち」をめぐる多分野におけるブラジル人コミュニティとの接点ブラジル籍の子どもたちの将来と愛県大からの貢献127

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