愛知県立大学 学報 2021-22 vol.9
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在名古屋ブラジル総領事との鼎談38の問題や経済的理由もあるだろうが、最も大きな原因は、子どもたちが、魅力ある大学を見つけることができないからだろうと見ます。だからこそ次長は、「これから先、そうした子どもたちにとって最優先の候補として本学を見て欲しい。彼らが大学構内に入る機会はめったにないだけに、大学がこうした企画を通じて、ブラジル人学校に発信することには大きな意味がある」との意見を述べました。 次長の意見に大きく頷いたネイ総領事は、「忘れてはならないこと」として、「ただ1回の取組みで、ブラジル人児童生徒の問題が一朝一夕に解決されるわけではない。たとえすぐに目に見える成果が現れなくても、そのための種をまいておくことが大切だ」と指摘しました。総領事によれば「サイエンス・フェア」の後も、総領事館はオンラインで定期的にブラジル人学校の子どもたちに、大学で学ぶとはどういうことか、ブラジルの教育や大学制度はどうなっているか、についての説明会を開催しており、「こうした方法を駆使しながら、日本の大学もブラジルの生徒たちに発信してよいのではないか」と述べました。ブラジル人コミュニティとのかかわりを大事にしてきた木佐貫次長は、「ブラジルと聞いただけで、気持ちが明るくなる」との思いを打ち明けました。次長は、多文化共生推進室に在籍していた2010年にブラジル人学校を訪問した際に、子どもたちが「はじけるような笑顔」で迎えてくれたことが忘れられないそうです。次長が本格的に関わった医療通訳システムの構築も、自分の原点が「そうした子どもたちを守りたい一心だった」と◀写真左からネイ・フトゥロ・ビテンクール在名古屋ブラジル総領事、 川畑博昭副学長、木佐貫昭二次長のことです。2017年に同室長職にあったときも、子どもたちの健康が気になって、ブラジル人学校での健康診断の実態調査をおこなったといいます。木佐貫次長のエピソードに感激したネイ総領事は、ブラジル出身の子どもたちの中には、確かに未就学やことばの壁、さらには犯罪や麻薬などの非行に走る場合などがあるが、「それでも」と強調しながら、「彼らが日本社会で生きていく――総領事はこれを「食い込んでいく」ことを意味するinserçãoの語で表現します――ことには希望がある」と断言しました。ネイ総領事のこの発言を受けて川畑副学長は、ネイ総領事や木佐貫次長といった人々に恵まれている今こそ、本学は地域に根を張ったブラジルとの国際的なつながりをよりいっそう発展させていけると強調します。そしてこの動機には、本学に着任するまでの時期に何度もブラジル出身の友人たちに助けられたという川畑副学長個人の強いブラジルの人々への思いがありました。 近くアフリカの駐トーゴ共和国ブラジル大使として着任するネイ総領事は、自分がアフリカへ着任してからも新たな挑戦をしたいと抱負を語られました。そして、かつてカメルーンのブラジル総領事館に勤務した時、それまでこの国にはなかったポルトガル語講座を開き、3年間で60人近くの修了者を送り出し、彼らがブラジルの大学や軍事施設で実地研修を行うことも実現した経験を語ってくれました。オンラインが有効活用できるようになった今こそ、例えば、ポルトガル語の学びを通して、アフリカと日本の学生が共にブラジルの学生と交流する可能性への期待についても言及されました。実現すれば、遠く離れた3つの国を結ぶ、まさに地球規模の交流になります。さらに本学に対しては今後、ブラジルの大学との交流関係を拡大し、すでに協定関係のある大学とは協力関係を強化していくことを願っているとのことでした。サンパウロ大学の工学部生を本学に招いて、ロボカップを開催するのもよいと、いかにもブラジルらしいアイデアも披露されました。最後に、ネイ総領事が、まさに在名古屋ブラジル総領事館が館を挙げて本学のために尽力してくださった成果をお伝えします。 ――2022年4月より2年間、ブラジル政府から1名の若手教員が本学に派遣されることが決まったのです。これによってポルトガル語とブラジル文化の教育体制がいっそう充実することになります!原点としての「はじけるような笑顔」、愛県大にとってのブラジル交流の可能性

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