愛知県立大学 学報 2023 vol.12
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学生・教員の活躍●●● 書籍紹介 ●●●7『解読真珠庵本『百鬼夜行絵巻』の暗号』2023年1月発行 三弥井書店及や推測はあっても全容を捉える研究は皆無なのだそうです。 名倉さんは、その謎に挑んだのです。55歳から73歳まで18年間(3年間の職場復帰を含む)を費やして博士論文としてまとめ上げ、21年目の今年、出版にこぎ着けました。書籍化するには内容的に不十分だとためらいがありましたが、研究会の仲間などから「真珠庵本『百鬼夜行絵巻』の全体像をつかもうとする研究は初めての快挙」だと勧められ、恩師からも「現時点での成果を世に問うことが、次への第一歩」と背中を押されて決心しました。 「絵の解釈は読み手にゆだねられます。私の研究がみなさまに受け入れられることを願っています」としつつも、次のように語ってくれました。「この1冊を機に、私の仮説がくつがえるような新たな文献や新解釈との出会いがあるかもしれません。絵巻の真相に迫る時が来るのを楽しみにしています」と。 愛知県立大学は世界の学問の一拠点である。長年にわたって、多くの場合に、県大では学問業績を基準とする開かれた公募で教員を採用してきた。これは日本学界では普通というわけではない。だから県大教員になるのは、学術賞を一つ得るようなものである。県大教員は設置母体への奉仕者ではなく、自己目的としての学問への奉仕者である。学問とは人類の新しい知見を求める営みであり、学術論文は全世界の専門家との競争において発信される。そういう学問上の戦闘経験があればこそ、大学教員には学生に教育し、公共に関することにも助言する能力・資格がある。県のため、市民のために奉仕する組織を作るというのは大学の本旨に合わないことで、世界で活躍する学者の集まりだからこそ、大学は県や市民にも奉仕できるのである。公立大学だから、地方大学だからという自己限定は、謙譲というより甘えであって、大学を小さくする。我々が目指すのは、「オンリーワン」というような生ぬるいものではない。我々は「ナンバーワン」を目指すことで、結果的に「オンリーワン」にもなるのである。 中学生の時に『百鬼夜行絵巻』に出会い、強く惹かれて記憶に残っていたという名倉さん。55歳直前で本学に入学した後、再び出会って、その魅力にとりつかれ、卒業論文、修士論文、博士論文を通じて、一筋にその研究を続けてきました。 この絵巻物は妖怪が行列を組み行進する様子を描いた色彩豊かな作品で、国の重要文化財に指定されています。60体あまりの妖怪たちが生き生きと描かれますが、説明の文章や言葉が全くないので、どのような目的で描かれたのかわかっていません。また部分的な言 今野先生は、2021年に刊行された著書『ドイツ・ナショナリズム─「普遍」対「固有」の二千年史』が、2022年度サントリー学芸賞の政治・経済部門を受賞しました。受賞を経たいま、研究活動にかける思いをご寄稿いただきました。 2020年、名倉ミサ子さんは社会人入学を経て本学国際文化研究科博士後期課程を修了し、73歳で博士号を取得。さらにこの度2023年、本学で得られた研究成果をまとめた書籍『解読 真珠庵本『百鬼夜行絵巻』の暗号』を出版しました。本学大学院修了生、75歳で博士論文を出版「オンリーワン」より「ナンバーワン」:愛知県立大学における学問2022年度サントリー学芸賞受賞記念インタビュー 外国語学部今野元教授

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