秋田県立大学 大学案内 2020
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OVATION これまで森林生態学の研究に30年近く取り組んできたことを活かし、4年前からセンサーカメラを使った熊の生息数調査をスタートしました。現在では県内の半分ほどのエリアを調査し、5年目となる来年で、ほぼ県内全域を網羅できそうです。 きっかけは、毎年公表される熊の処分数や生息数などの数字を新聞で見ていて、アンバランスさを感じたことからでした。そこで学生と一緒に新聞に出る数字を追って、マップに入力していったんです。きちんと調べてみると、毎年相当な数が処分されていても尚、まだ多くの熊が生息していることが分かり、正確な数字を出す必要性を改めて感じています。集積したデータを解析だんだんと真実に近づいていく喜び 調査には赤外線で反応する特殊カメラを使用。熊に限らず動物は良く動くので、写真ではなく動画で撮影しています。設置したカメラの上部に熊が好きな木の防腐剤を塗り込んだ棒を仕掛けておくと、熊が寄ってきてそれにじゃれつき、腕を伸ばしたときに胸の模様を見せてくれるんです。胸の模様は個体によって違うので、それで個数を判別しています。各調査地から集められた膨大なデータを分析するのが、私がメインに担当するところ。研究室のパソコンを使って方程式に当てはめながら、四六時中計算しています。30年以上かけて培った自然界でのノウハウを活かして 私が専門とする「森林生態学」では、森林の構造と群生する樹木の変化について研究しています。調査エリアは岩手県奥州市・胆沢という地域で、広さにすると5ヘクタールくらい。シードトラップという網を仕掛けて、落ちてきた木の実や葉っぱを採取し個数を調査しています。もともと自然が好きで、学生の頃からこのテーマに興味を持ち、かれこれ30年近く。30年というと、とても長い期間のように感じますが、実がなるのも落ちるのも一年に一回のことですから、実はまだまだ調査途中。最近になって、自然界の豊凶のリズムが少しずつ分かってきて、やっと手応えを感じ始めているところです。これからも地道に調査を続けていき、ゆくゆくは自然界のビッグデータのようなものを作れたら良いな、と思っています。 森林生態学の調査のために通い続けている胆沢には熊もいます。ですが、20〜30年が寿命と言われている熊にとってみたら、30年近く通い続けている私の方が先住者。子熊が私を見て怯えていると、母熊が「この人は大丈夫よ」ってコソコソ囁くんです(笑)。そうすると子熊は安心して動き出す。そんな姿を見ていると思わず愛着が湧いてしまうんですよね。 世界的に見ると、熊は絶滅が危惧されている部類。すでに西ヨーロッパではほぼ絶滅していますし、人が住んでいる場所の近くに熊がこれほど多く生息していることは極めて珍しいんです。危険もはらんでいるけれど、それだけ自然が残されているということでもあり、ある意味財産でもあると思います。カメラを使った調査で修正された生息数が少しでも、ヒトと熊とが共存できる未来への一助になれば幸いです。Akita Prefectural University 20207

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