秋田県立大学 大学案内 2021
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 命あるものに限りがあるのは自然の法則。ウシや動物にとっても例外ではありません。現在の技術で精子や卵子を凍結して保存することはできますが、それすらもいつかは使い切ってしまいますよね。そこで目指すのが、iPS細胞から精子・卵子を作出するということ。現在の技術ではマウスでの成功例がありますが、ウシはまだ未知の領域です。 まずはマウスiPS細胞の作出から挑戦しました。最初は、iPS細胞がほんの少ししかできないものだと思っていましたが、実際は、1〜3週間かけて1枚の培養皿のそこかしこにiPS細胞が出来はじめ、最終的には数百個のiPS細胞集合体ができることが分かりました。それだけ高効率で作り出すことができる、確かな技術なのです。 既存の方法を模倣していく一方で、自分たち独自の方法も確立しました。iPS細胞を作出する過程で、今までは人工的にこまかく遺伝子を活性化させることができなかったものを、私たちは活性化の時期や遺伝子の種類を調節することに成功しました。これにより、iPS細胞の形成過程について、より詳しい研究が可能になります。日々技術力を高めているとは言え、まだスタートライン。マウスで成功しても、すぐにウシへ応用できるわけではありません。研究を始めて4年になりますが、まだウシのiPS細胞の“候補”を作り出したところ。まだまだ道のりは遠そうです。 もう一つ、iPS細胞の研究で目指すのが、再生医療への活用。すでに知られている通り、iPS細胞は精子・卵子だけでなく、ヒトの臓器を作り出すことができます。命が育っていく源である胎盤の創成にも重要な役割を担うことが分かっていて、それをもっと掘り下げて研究していけば、流産防止や妊娠率の向上など、不妊治療などにも活用できるのではないかと期待しています。 私の専門は、元々哺乳動物の発生学です。受精卵が、発生が進むに従ってどのように種々の細胞に分かれていくのかを研究していました。それが徐々に、研究の対象が変化していき、胎盤形成のスタート段階にまで遡り、iPS細胞を作出する研究へと進化していったのです。研究に決まった道筋はなく、進行と共に幅がどんどん広がっていくもの。人生と少し似ていませんか?学生の皆さんも興味があることに臆せず向き合い、その過程をステップに、自分をより奮い立たせる方向へとチャレンジしてください。まずはマウスでの作出に挑戦オリジナルの手法も新たに確立命の源“胎盤”を創成して流産防止や妊娠率向上に活用7Akita Prefectural University 2021

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