秋田県立大学 大学案内 2022
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匂いを科学する、匂いで繋がる昆虫と植物の世界を探る京都市に生まれ、瀬戸内海や姫路城を眺め兵庫県で育つ。京都大学農学部卒業、一度大学院入試に失敗するも、同大学院農学研究科応用生命科学専攻修了、博士(農学)。京都大学COE研究員、サボテンと砂漠に囲まれたアリゾナ大学での博士研究員、秋田県立大学助教を経て現職。趣味は野球や大学時代に熱中した柔道などスポーツ観戦、旅行や街歩き(ご当地グルメを楽しんだり、地図や時刻表を見るのが好きです)。生物有機化学/天然物化学/化学生態学野下 浩二 准教授NOGE Koji生物資源科学部 生物生産科学科カメムシと洋ナシの意外な化学 私は天然物有機化学や化学生態学を専門としていて、生物学と化学の両面から、自然界の不思議を探っています。その一つに匂いに関する研究があり、生物と匂いの関係性や匂いの抽出、合成などを手がけています。 その中でも最近特に力を入れているのはカメムシの匂いに関する研究。あの独特で強烈な匂いには、実は様々な働きがあり、個体同士で会話をしたりコミュニケーションをとるのに必要です。そこで、カメムシの匂いと行動との関連性や、どんな匂いを好むのか、ということを研究し、その生態の未知に迫っています。 カメムシは日本に約900種、世界には4万種ほどいるとされていて、私もまだお目にかかっていない種類がたくさんいます。種類が違えば嗜好や行動も異なるため、研究の楽しみは尽きません。 生物×化学のパワーは計り知れなく、両方の側面から物事を見てみると、新たな発見につながることが多いのが面白いところ。化学の力を持ってすれば、カメムシの新たな側面を発見することができます。例えば、あの嫌な匂いを“良い香り”に変化させることもできます。試験管の中にカメムシの匂い成分を入れ、アルコールや無水酢酸などを加えるとフルーティーな香りに変化するのです。 現在、目下研究中なのが、カメムシの嗜好性です。どんな匂いや作物を好むのか、実際にカメムシを飼育して日々研究しています。分かっているのはリンゴやイネ科、そしてセリ科のフェンネルの匂いを好むということ。甘い匂いだけではなく、ハーブにも寄ってくるのは面白いですね。好きな匂いを研究すれば、その匂いでカメムシを誘引することができます。将来的には「カメムシホイホイ」のような駆除用品の誕生にも役に立てるかもしれません。ただ、カメムシの種類が多い分好きな匂いも多岐に渡っていること、またそれを融合させても効果があるものなのか、これからの研究課題となりそうです。 また、匂いの研究はカメムシだけにとどまりません。匂いの分析や抽出する技術を生かして、最近では「秋田杉ジン」の開発に協力させていただきました。匂いに関する研究は、今後も食品や日用品の分野で活躍できる、将来性の高い研究分野だと考えています。 卒業生は公務員の農業職や食品業界、農用系の職で活躍しています。大学での研究は、本当に面白いですよ。設備が整っていて時間もあるので、高校までとは桁違いのスケールで実験に没頭できます。今、少しでも化学や生物に興味があるのなら、ぜひ一緒に生物の未知を探究しにいきましょう!強烈な匂いには理由があった!?“カメムシ”の未知の世界に迫る生物学×化学のパワーで紐解く匂いと生態の不思議な関係6

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