27多彩な研究を行う秋田大学の研究者について、秋田大学ホームページに掲載のインタビュー記事から一部を抜粋して紹介します。 研究者紹介 秋田県にはきりたんぽ、稲庭うどん、いぶりがっこ、日本酒などの地域食文化がありますが、食品製造品出荷額は東北で最も低く、経済的な課題があります。 池本先生は地域資源を活用し、その有効成分や機能に着目して明確化することで付加価値の高い健康食品や化粧品を開発 上村先生は、かつて理学療法士として勤務していた病院で、睡眠薬の副作用によりリハビリテーションが困難になる患者を見た経験から、薬に頼らない睡眠改善法の研究に取り組むようになりました。 その一つの方法として、温泉の温熱効果やリラックス効 景山先生は、超スマート社会(Society 5.0)における人間中心の社会構築を目指し、情報技術の活用に取り組んでいます。 具体的には、人と人をつなぐ技術「ヒューマンセンシング」を用いて、非言語情報の伝達技術の開発に注力しています。 この技術は、唇の動きや音声、脈拍などの生体情報を活用し、例えば発話者が複数いる場合でも高精度な議事録作成を実現するシステムを開発しています。 また、e スポーツを利用して高齢者の認知症予防や健康寿命延伸に貢献する研究も行っており、ゲーム中の顔面温度や色の変化を分析して感情の変化を検出する技術も開発しています。 加えて、人と社会 ( 環境 )をつなぐ技術「リモートセンシング」を用いて、八郎湖の水質推定や北海道に生息しているスズランの個体数検出など、環境保護に貢献する研究も行っています。 特に、UAV(無人航空機)を使って高精度なデータを収集しており、研究で得られた技術は地域社会に還元しています。 先生は今後ますます加速するであろうデジタル社会に活躍できる学生の育成と、人が人を思いやり、優しくできるものづくりをめざして研究を続けていきます。し、それらを通じて地域経済の活性化に繋げる研究をしています。 特に注目しているのが中仙ジャンボうさぎで、鶏肉に似た食感を持ち、α-リノレン酸が豊富です。 この脂肪酸は生活習慣病予防に効果があり、研究により飼料にエゴマ油の搾りカスを加えることで、うさぎ肉のα-リノレン酸含量が向上しました。 先生はこのジャンボうさぎを「中仙月夜」と名付け、ブランド化を進めています。 また、秋田特産のアケビを活用したアケビ油の研究にも取り組んでおり、その健康効果が確認されました。 アケビ油は消化吸収が低いため、肥満や生活習慣病予防に適しており、秋田県の山間部の耕作放棄地を活用してアケビ栽培を促進することが期待されています。 先生は地域資源を活かしたさらに付加価値の高い商品開発に取り組んでおり、いつかオンリーワンの欠かせない商品となるよう、研究に励んでいます。果が睡眠に与える影響について研究を進めています。 先生は秋田温泉さとみで実験を行い、塩化物泉や人工炭酸泉での入浴が深部体温を効果的に変動させ、良質な睡眠を促すことを確認しました。 また、大潟村の農業従事者の疲労回復を目的に、全国的にも珍しいモール泉(有機物を多く含む温泉)を有する温泉施設において疲労回復効果の検証も行っています。さらに、入浴剤メーカーとの共同研究も行っており、冷え性の方が1か月間入浴剤を使用した結果、冷え性が改善し、睡眠の質向上にもつながったことが示されました。 先生は、今後も温泉の持つ可能性を科学的に解明し、睡眠の質を向上させるだけでなく、心身の健康全般に役立てること、さらに多くの人に役立つ知見を提供したいと考えています。 後藤先生は、中東・湾岸地域における物質文化、とくにイスラーム圏の女性の服装や仮面文化について、女性の視点から研究をされています。 政治や資源に注目が集まりやすい同地域において、女性の日常や文化を捉える研究は少なく、先生はそこに着目しました。 現地では、イスラームの規範により男性が入れない女性の空間や生活に入り込み、仮面を実際に着用しながら聞き取り調査を行っています。 仮面は生涯を通して外すことが少ないもので、信頼関係や年齢、出身地なども表す重要な文化的要素です。 また、女性の服装は宗教的な意味合いを持ちながらも、経済発展や社会の変化によって、素材やデザインに多様性が生まれ、ファッションとしての側面も持つようになりました。 アラブ首長国連邦では男性用民族衣装「トーブ」の生地にも注目し、日本企業との関わりや素材開発の背景など、資源と文化の関係性についての研究も進めています。 文化的背景を理解することで異文化との円滑な交流が可能になるとし、学生には「気づき」を得て、自分の興味や強みを見つけてほしいと語っています。 これまでに72カ国を訪れた経験を活かし、今後も女性の視点での地域文化研究を広げていかれる予定です。 私たちの周囲には、ウイルスや細菌などによる感染症のリスクが常に存在します。 感染症とは、病原体が人の体内に侵入して起こる病気で、感染経路や感染源を正しく理解することが予防の鍵となります。 嵯峨先生は、院内感染の防止や薬剤耐性菌対策、さらに渡航外来の開設と学生に対しての渡航前教育など、多岐にわたる感染症対策に取り組んでいます。 かつては感染症が人類にとって最大の脅威でしたが、抗生物質の発見とワクチンの普及により大きく状況は改善しました。 しかし近年、SARSや新型インフルエンザ、エボラ、新型コロナといった新興感染症が相次ぎ、再び感染症の脅威が世界規模で広がっています。 先生は、感染症と戦うためには「病原体が見えずとも存在することを認識する」ことが重要だと強調します。 2017 年には秋田県初の第一種感染症病棟「HIDU」も開設され、重篤な感染症への備えが進んでいます。 さらに、細菌の増殖を抑制する治療薬である「抗菌薬」の適正使用を目指す活動も推進し、薬に対する抵抗力を持った耐性菌の拡大を防ぐための啓発を行っています。 先生は、感染症と感染対策を正しく理解することが安心して暮らすための第一歩に繋がると語ります。 金属は人類の歴史と深く関わり、今なお未知の可能性を秘めた興味深い素材です。 肖先生は、金属の構造や特性を探究し、新しい合金や準結晶の発見を目指す研究を進めています。 合金とは複数の金属元素を組み合わせたもので、熱処理や配合によって特性が変わります。 これはまるで、同じ食材でも調理法によって味が変わる「料理」のようなものです。 身の回りの物質、特に金属などの硬いものはほとんどが「結晶」の構造です。結晶以外には、不規則な配列の「アモルファス」物質があります。 代表的な物質はガラスです。 1980 年代には、従来の結晶やアモルファスとは異なる特殊な構造を持つ「準結晶」が発見され、数学的にも美しい特徴を有することから注目されています。 先生の研究では、既存にない元素の組み合わせで新たな準結晶を創り出し、その原子配列と性質の関係を明らかにすることを目指しています。 準結晶が発見されてから約40 年が経ちますが、今でも新しい準結晶が次々と発見されています。 自ら新しい物質を作り出すチャンスがあるというのが研究の魅力であり、金属という身近でありながら奥深い素材に、今後も無限の可能性が秘められているのです。L A B I N T E R V I E W湾岸地域における仮面文化を追求する臨床へ活かす感染制御の研究で地域に還元したい系統的なルールを見出しながら、新しい金属材料を探る総合環境理工学部 環境数物科学科 機能デバイス物理コース 准教授 肖 英紀地域食資源の活用でオンリーワンをめざす教育文化学部 地域文化学科 地域社会・心理実践講座 地域社会コース 教授 池本 敦温泉がもたらす睡眠効果を探る大学院医学系研究科 保健学専攻 理学療法学講座 准教授 上村 佐知子デジタル社会で質の高いつながりを追求する情報データ科学部 情報データ科学科 教授 景山 陽一国際資源学研究科 資源政策コース 助教 後藤 真実医学部附属病院 感染制御部 病院教授 嵯峨 知生研 究 者 紹 介
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