群馬大学広報誌 GU’DAY(グッデイ) 2020 Autumn
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 2019年末に発生した新型肺炎の正式名はCOVID-19 です。厳密にはCOVID-19は病気の名前であり、ウイルスの名前ではありません。ウイルスの名前はSARSコロナウイルス-2です。このウイルスの名前からわかるように、COVID-19は2002年に発生したSARSコロナウイルス(今後、こちらはSARSコロナウイルス-1になるでしょう)に近縁であることがわかります。 ウイルス学的にはこの2つのウイルスは細胞内に侵入するとき同じACE2(アンギオテンシン変換酵素-2)という受容体を利用します。この受容体は、ウイルスが細胞内に入るための最初のステップでとても重要な過程です。ワクチンなどはこのステップを阻害するようにデザインされます。 今回のコロナウイルスがこれほど感染が拡大した大きな理由は、症状がない人が感染性を持ったウイルスを排出している点であると思います。それに加えて、やはりグローバル化の中で世界の人々の往来が頻繁であることが感染の世界的な拡大に繋がったのであろうと思います。「新型コロナウイルスって?」 ウイルスの研究には、今や欠かせないものとなっているウイルスの遺伝子操作系という基盤技術があります。わかりやすく言い換えると「ウイルスの人工合成」です。以前はウイルスの表現型を調べるために、薬剤などを用いて人為的にウイルスの遺伝子に変異を導入したり、何代も培養細胞で継代を繰り返し弱毒化したウイルスを分離していました。この方法はとても時間がかかるうえに、ウイルス遺伝子のどこに変異が入るかといったことの解析にも時間がかかります。 そこで、ウイルスの遺伝子を分子生物的な手技を用いて遺伝子に変異を導入し、その表現型を解析しました。 この方法を用いることにより、どこに変異を導入したか前もってわかるため、解析時間を短縮することが可能になりました。コロナウイルスの研究にもこの手法が用いられており、私の研究室でもこの人工合成の系を取り入れてSARSコロナウイルス-2の複製機構や病原性の解明に取り組んでいます。それ以外にも、実際のSARSコロナウイルス-2を用いて、その複製を阻害する化合物の評価に取り組んでいます。 最後に伝えなければならないのは、「必ず今後も新しいウイルス感染症は出現する」ということです。「人類の歴史は感染症との闘いである」というのは間違いありません。今後もさらにグローバル化は加速していくため、未知のウイルスは突如出現してきます。これらに対応するには、ウイルス研究者だけでなく、工学系、情報系などの異なる分野との融合的研究を行なうのが重要であると思います。まずは、群馬大学からこのような融合的研究が加速するようにしたいですね。さらに重要なのは若い人材です。もし、感染症対策に取り組みたい、あるいは、ウイルス研究に興味があれば、学科を問わず連絡ください。お待ちしております。「コロナウイルスの研究って?」「ウイルス感染症の今後って?」新型コロナウイルス 研究特集※受容体:生物の体にある外界や体内からの何らかの刺激を受け取る器官やそれらの器官の構成成分の受容細胞のこと。最後に重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスSARSコロナウイルス-2(COVID-19)中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス2020/8/5新型コロナウイルスu学術的にはSARSコロナウイルスの2ですu約20年前に発⽣した重症急性呼吸器症候群コロナウイルスの親戚ですu今回で3つの重症化するコロナウイルスが出現していますコロナウイルスの⼈⼯合成ウイルスの遺伝⼦核ゲノムRNAゲノム複製ウイルス蛋⽩質組換えコロナウイルス簡単に⾔えば、ウイルスの遺伝⼦を培養細胞に⼊れるだけで、組換えウイルスを作ることができます群馬大学に赴任して一年が経ちます。その間、授業と研究を支えてくれた、生体防御学講座のメンバーに感謝しています。5GU'DAY Issue 08 |

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