群馬大学広報誌 GU’DAY(グッデイ) 2020 Autumn
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新型コロナウイルス 研究特集 35年前、大学の研究室に入って初めて与えられたテーマが、日本の公害の原点と言われる「足尾鉱毒事件」の現場となった渡良瀬川流域の銅の研究でした。それ以来ライフワークとして銅の研究を続けています。また、15年前に桐生市水道局の技術顧問に就任したのを契機に、光触媒を使った水質浄化の研究を開始しました。 光触媒を水質浄化材料として使うには固体に固定化する必要があります。ガラスやステンレスなど色々な材料に光触媒を塗布した材料を開発していた2年ほど前、桐生市の会合で銅の繊維でカーテンが編める人と出会い、銅の繊維に光触媒を塗布した材料の開発を着想しました。今回光触媒と銅繊維を組み合わせて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に貢献できる材料(商品名:GUDシート)が開発できたのも何かの縁と思っています。 光触媒とは光が当たると強力な酸化力を持った化学種を生成する物質で、一般には二酸化チタンが用いられています。二酸化チタンは半導体なので光(紫外線)が当たると価電子帯の電子が伝導体に励起され、価電子帯に正孔と呼ばれる正電荷を持った部分ができます。ここに水中の水酸化物イオン(OH-)が触れると電子が奪われヒドロキシラジカル(・OH)が生成します。ヒドロキシラジカルは強い酸化力を持っているので有機物を分解します。菌やウイルスも有機物でできているので、光触媒表面に触れることで分解され感染力を失います。図1 光触媒の酸化メカニズム図2 抗菌性能試験結果 2020年3月に米国立衛生研究所(NIH)らの研究グループが固体に付着した新型コロナウイルスの感染力に関する論文を発表しました。それによるとプラスチックやステンレス表面に付着したウイルスは48時間から72時間感染力を維持しているのに対して、銅の表面に付着したウイルスは4時間で感染力を失う(不活化する)ことが分かりました。銅は古くから殺菌効果がある材料として知られていましたが、新型コロナウイルスの不活化に対しても有効であることが示されました。 光触媒を銅の表面に塗布したものを作れば高い抗菌・抗ウイルス性能を持った材料ができると考えられます。通常の二酸化チタンは紫外線で無ければ光触媒作用を示しませんが、ここでは屋内の光(可視光)でも触媒作用を示す物質を合成し、銅繊維を密に織った生地にこの光触媒を塗布した「可視光応答型光触媒銅繊維シート:GUDシート」を開発しました。 大腸菌を使ってGUDシートの抗菌作用を検討した結果を図2に示します。光触媒を塗布していない銅繊維シートの場合、30分間で大腸菌の数は10分の1に減少しますが、光触媒を塗布したGUDシートの場合、30分間で5000分の1に減少し、GUDシートには高い抗菌作用があることが分かりました。ウイルス(バクテリオファージ)を使って同様の実験も試みました。その結果、ウイルスの数は10分間で500分の1、30分間で10000分の1となり、GUDシートはウイルスに対しても高い不活化作用があることが分かりました。バクテリオファージはコロナウイルスとは種類の違うウイルスですが、GUDシートは有機物であれば分解するため、新型コロナウイルスも不活化できると考えています。光触媒とは新型コロナウイルスと銅についてGUDシートの抗菌・抗ウイルス性能群馬大学 大学院理工学府環境創生部門 環境エネルギーコース教授 板いたばし橋 英ひでゆき之 Theme:「新型コロナウィルス 感染拡大防止銅繊維シートの開発」研究紹介02※半導体:条件によって電気を流したり流さなかったりする物質。導体と絶縁体の中間の性質を持つ。※価電子帯:価電子(原子の最外殻にある電子)により満たされたエネルギー帯群馬大学工学部卒業。筑波大学大学院博士課程修了。筑波大学助手、群馬大学助手・助教授を経て2004年より群馬大学工学部教授。2009年から2013年工学部長・工学研究科長。2017年(株)グッドアイを設立し取締役会長に就任。【研究分野】環境中の有害物質の分析と除去、バイオマスを使った土壌改良材の開発と応用Profile [HP]https://itabashi-lab.ees.st.gunma-u.ac.jp/index.html図2抗菌性能試験結果1.E+21.E+31.E+41.E+51.E+61.E+71.E+8051015202530⼤腸菌の⽣菌数/ CFU mL-1可視光照射時間/ 分ブランクCu-fiberN-TiO₂/Cu-fiberブランク銅繊維シートGUDシート1021051061081071031046| GU'DAY Issue 08

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