群馬大学広報誌 GU’DAY(グッデイ) 2021 Autumn
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地域の方向け ある日、研究室の学生が「先生、この実験をすると手がスベスベになるんです!」と言ってきました。その実験とはサンゴ由来の天然鉱物を使ったものです。 私の研究室の実験テーマの一つに、群馬県草津町の酸性河川水と堆積土壌の分析があります。草津の酸性河川は、中流の施設から24時間365日石灰が投入され中和されています。その際に生成した沈殿は下流にあるダムに堆積し、浚渫後最終処分場に廃棄されています。これには莫大な費用が投入されているので、少しでも軽減できないかと考え、石灰以外の中和剤の検討を開始することにしました。 石灰の主成分はカルシウムです。これをより軽いマグネシウムに変えれば堆積物の量を減らせるはずです。たまたま研究室にあった、数千万年前のサンゴなどが堆積してできた天然鉱物「サンゴライト」を使ってみることにしました。サンゴライトはマグネシウムを多く含む炭酸塩岩なので、粉末化すれば中和剤として利用できます。サンゴライト粉末を草津酸性河川水に添加して実験を行ったところ、沈殿の量を減らせることが分かりました。ただし、費用的に合わないので石灰の代替はできません。研究成果を実用化するには、経済性が壁となります。 研究はここで終了と思った矢先、先の学生の発言です。他の学生にも聞いたところ、皆「スベスベになる」との意見でした。そこで成分を調べたところ、サンゴライトを溶かした溶液は、顔にシューっとスプレーする、女性に人気の高級化粧水「○○○○ウォーター」とほぼ同じであることが分かりました。群馬大学大学院理工学府教授板橋 英之いた ばし  ひで ゆきサンゴライト溶解水の肌に対する効果―偶然の発見から臨床試験までー群馬県桐生市生まれ。群馬大学工学部卒業。筑波大学大学院博士課程修了。理学博士。筑波大学助手、群馬大学助手・助教授を経て2004年より群馬大学工学部教授。2009年から2013年工学部長・工学研究科長。2021年から群馬大学副学長。 河川水の中和剤としては値段が高すぎて使えませんが、化粧水の原料だったら話は別です。銀行が主催するビジネスプランコンテストに「天然鉱物で風呂の水を化粧水に変える」と題して応募したところ、奨励賞を頂きました。「○○○○ウォーター」の意味をもう少し上手くプレゼンできていれば、もっと上位の賞がもらえたのではないかと後悔していた矢先、地元の建設関係の企業から「サンゴライトを温浴施設に展開したい」との連絡を頂きました。この会社の会長がコンテストの審査員として参加していたのです。 早速、この会社と共同研究契約を交わし、サンゴライト溶解装置を開発して日帰り温泉などの温浴施設に「サンゴライト化粧水風呂」として導入しました。利用者240人にアンケートを取ったところ、「肌がスベスベになった」「しっとりした」「化粧水の浸透が良かった」などの感想が寄せられ、利用した人のほぼ100%から「また利用したい」との回答が得られました。偶然の発見ビジネスプランコンテストと温浴施設への展開 研究紹介Introduction to one of theGU Researchers!18 GU'DAY

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