浜松医科大学 NEWSLETTER 2023.10(Vol.50 No.1)
10/28

9NEWSLETTER図2研究1. 非心臓手術患者におけるノルエピネフリン対ドパミンJIPAD 年次レポート<研究2. 日本における産科患者の  ICU疫学研究(図3)2>図3研究2. 日本における産科患者のICU疫学研究Breaking Researchネフリン(NE)がドパミン(DA)より患者予後を改善することが敗血症診療ガイドラインで報告されていますが、非心臓手術の周術期における効果はまだ十分に検討されていません。私達はJIPADを用いて、平成30(2018)年から令和2(2020)年に非心臓手術後24時間以内にNEまたはDAを投与された成人患者を対象に、1対1の傾向スコアマッチング法で比較しました。結果として6,236人の患者がNE群(n=4,652)またはDA群(n=1,584)に割り当てられ、傾向スコアマッチングにより1,230組の一致コホートが作成されました。院内死亡率は両群間で有意差はありませんでした(リスク差, 0.41%;95%信頼区間,−1.15〜1.96;p=0.61)。ICU滞在期間はNE群で有意に短縮しました(中央値NE群3日, DA群4日, p<0.001)。先進国では高齢出産や人工生殖による母体リスクの増加が報告されていますが、日本における産科患者のICU利用についての疫学研究はありません。私達はJIPADを用いて、産科患者の疫学とその年次トレンドを調査しました。平成27(2015)年から令和2(2020)年までにJIPADに登録された184,705人の患者の<研究1. 非心臓手術患者における ノルエピネフリン対ドパミン(図2)1> 敗血症性ショックの治療ではノルエピ図1集中治療部(ICU)病院講師 青木 善孝<日本ICU患者データベース(JIPAD)について> 日本ICU患者データベース(Japanese Intensive care PAtient Database, JIPAD)は、日本集中治療医学会が管理するICU患者の全例登録データベースで、当院も令和元(2019)年から加盟しています。JIPADは、患者の疾患、重症度、治療内容、退院時転帰などの情報を収集し、各施設間での比較を通して、医療の質向上と集中治療医学の発展を目指しています。参加施設に対する年次レポートを通じて、私達も当院の治療内容や患者成績の振り返りをしています(図1)。また、令和4(2022)年からJIPADへの参加により特定集中治療加算が追加され、当院も年間約574万円増収になりました。さらに、全国のJIPADデータ(令和5(2023)年6月時点で89施設248,908人)を用いた臨床研究も実施可能で、私達は今年2つの研究成果を国際学術誌にて発表しました。<論文>1. Aoki Y, Nakajima M, Sugimura S, et al. Norepinephrine versus dopamine postoperatively in patients who underwent noncardiac surgery: A propensity-matched analysis using a nationwide intensive care database. Korean J Anesthesiol 2023;2. Asaba H, Aoki Y, Akinaga C, et al. Obstetric admission to intensive care units in Japan: a cohort study using the Japanese Intensive care PAtient Database. J Anesth 2023;うち、750人(0.41%)が産科患者でした。年齢の中央値は34歳、APACHE IIIスコアの中央値は36、院内死亡は5人(0.7%)でした。平成27(2015)年から令和2(2020)年までの間に産科患者の入室割合は変動がありませんでした(P for trend=0.32)。しかし、患者の重症度、人工呼吸の使用、入院期間は、平成27(2015)年から令和2(2020)年までの間に有意に減少していました。大部分の患者は、妊娠関連の手術後に入室していました。<今後の展望> 私達は現在、周術期の患者体温と予後の関連、乳酸アルブミン比の精度検証についてのJIPAD研究を進行中です。また、産科患者の疫学研究で明らかになった臨床疑問について、東京大学臨床疫学分野と提携し、DPCデータベース研究を進めています。今後は次世代の研究者を育成し、JIPADデータを活用して多くの学術業績を創出することを目標としています。 最後に、日々JIPADの運営を指導いただいている中島芳樹教授、御室総一郎副部長、そして麻酔科および集中治療部の全スタッフに対し、深く感謝申し上げます。研究最前線集中治療医学における臨床疫学研究:日本ICU患者データベース(JIPAD)の活用

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る