浜松医科大学 NEWSLETTER 2023.10(Vol.50 No.1)
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7NEWSLETTER<考察>Breaking Researchション科(山内克哉病院教授)、信州大学(小宅一彰准教授)との共同研究により、患者・医療者双方の意見を聴取する多施設アンケート調査を実施しました。調査の結果、患者群と医療者群の双方でそれぞれ最も多くの対象者に選択された動機づけ要因トップ3は両群で共通しており、「回復の実感」、「明確な目標の設定」、「患者の生活に関係する訓練」でした(図)。一方、対象者の5%以上が選択し図図A図B総合人間科学講座(心理学)教授 田中 悟志<研究の背景> 身体活動や運動を含むリハビリテーション治療は、病気や怪我の後に患者の日常生活に必要な能力を回復するために実施されます。リハビリテーションの効果を最大化するためには、治療に対する患者さんの意欲向上が極めて重要であると考えられています。では、リハビリテーションに対する患者さんの意欲はどうすれば高まるのでしょうか?この問いの答えは、研究に裏付けられた十分なデータがあるわけではなく、個々の医療者の経験やセンスに依存しています。我々はこれまで患者さんを動機づけるために重要と考えられる要因について医療者を対象とした調査を実施してきました。しかしながら、何がリハビリテーションに対する患者さんの意欲を高めるのかについて患者さんと医療者は異なる考えを持っている可能性があります。患者さんと医療者の考えの共通点と相違点を明らかにすることは、リハビリテーションにおける「根拠に基づいた実践: Evidence-Based Practice」と「患者中心ケア: Patient-Centered Care」に重要な知見となります。この問題を明らかにするために、本学医学部附属病院リハビリテー<研究方法> 本研究は、静岡県、長野県、愛知県、千葉県の回復期リハビリテーション病棟を有する13施設において実施しました。該当施設に入院している脳卒中、神経疾患または整形疾患を有する患者479名と、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の医療者401名が調査に参加しました。参加者は、15個の動機づけ要因のリストの中からリハビリテーションに対する患者さんの意欲を高めるために最も重要な要因を選択するよう求められました。<研究結果><論文情報>Oyake et al., A multicenter explanatory survey of patientsʼ and cliniciansʼ perceptions of motivational factors in rehabilitation. Communications Medicine, 3(1): 78, 2023. https://doi.org/10.1038/s43856-023-00308-7 た要因の数は、医療者群は5つであるのに対し(図A)、患者群は9つでした(図B)。すなわち、何がリハビリテーションに対する意欲を高めるかは、医療者よりも患者間の個人差が大きいことが分かりました。これらの研究結果は、リハビリテーションにおける動機づけ方略を考える際に、医療者は双方から支持される中核的な動機づけ要因を基本戦略とし、それらに加えて患者背景や個々の患者さんの好みも考慮すべきであることを示唆しています。本研究成果は、患者さんの動機づけに難しさを感じているリハビリテーション医療従事者、特に臨床経験年数の浅い医療者にとって有益な情報になると考えられます。患者の意欲を高める動機づけ要因に関する(A)医療者群と(B)患者群の回答の分布。動機づけ要因は、選択した対象者の割合が大きい順に並べています。縦の点線は対象者の5%を示しています。研究最前線患者さんのリハビリテーションに対する意欲を高めるには?

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