浜松医科大学 NEWSLETTER 2023.10(Vol.50 No.1)
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<Aさん 90歳代 女性 心臓手術後に菌血症になった認知症患者のせん妄> ICU来棟時は感染症、易怒性のために興奮して手をくるくる回してライン類を引っ張っていました。マフを使用し始めると、マフを触って穏やかな表情になりました。状態が安定後、HCUへ移動後、マフを活用することでミトンを装着せずに点滴自己抜去なく、穏やかに過ごすことができました。<マフを活用した効果検証と研究の展開> マフを活用した身体拘束低減に関しては、令和4(2022)年、令和5(2023)年の日本認知症ケア学会・日本老年看護学会の学術集会等に発表し、新しい認知症ケア方法として注目されています。マフTwiddle Muff(認知症マフ)活用ケアガイドVer2*ご自由にダウンロードしてください NEWSLETTER臨床看護学講座 教授 大学院医学系研究科看護学専攻富樫 千代美(博士前期課程)2年 集中治療部(ICU) 副部長 御室 総一郎鈴木 みずえ<認知症マフとは?> 認知症マフ(Twiddle Muff)は筒状のカラフルにデザインされたニット製のハンドメイド小物で、筒の中に手を入れて触ることで気持ちが落ち着いたり、回想が引き起こされるなどの記憶がよみがえったりする効果があると言われています。主に認知症を抱える高齢者を対象に作られています。このマフの特徴は、ニットの内外に、花・動物・スポーツなどのアクセサリーが付けられ、筒型の部分に手を入れてこれらのアクセサリー等を触わって温かな心地よい感覚から心身の緊張をほぐして安心感が得られるようです。英国ではオックスフォード大学病院や一部地域の救急車の高齢者ケア、救急搬送時のケアに活用されています。筆者らは、令和3(2021)年から活用を試みて、令和5(2023)年7月に『Twiddle Muff(認知症マフ)活用ケアガイドVer2』を発表しました。<附属病院の活用とマフの効果> 認知症患者には前頭葉の障害から強制把握と呼ばれる視野に入ったものを掴んでしまう傾向があります。しかし、マフを触ることで心地よい感覚を得ることができるため穏やかになる効果が期待されます。また、刺激の少ない人の触覚を用いたケアとして神経系をリラックスさせ、手を温めることで心を落ち着かせるなどの効果も期待されています。 現在、附属病院のICU(集中治療室)・HCU(高度治療室)・整形外科病棟でマフの活用を行っています。趣味や好みに合ったマフをケアに活用することで、身体拘束低減や会話できなかった患者が活発に話し出したなどの事例が報告されています。 <マフを中心とした癒しのネットワーク> 附属病院で活用しているマフはボランティアグループ“一歩の会”が制作しており、これによって認知症ケアに貢献する生きがい作りとなる“病院と市民を結ぶ癒しのネットワーク”が広がっています。令和5(2023)年6月に認知症基本法が制定されました。今後、認知症の本人の視点を重視したケアの促進が社会的に求められており、認知症ケアの質の向上や認知症に対する適切な理解を深めるためにも、マフの活用が重要な役割を果たしていくことがマフを活用する看護師の笑顔が認知症患者を笑顔にするを活用した医療職のインタビューの質的分析研究(日本老年医学会誌掲載決定、印刷中)、ミトン装着による身体拘束低減を目的にマフ活用の促進要因に関する研究も論文投稿しました。期待されています。 現在、附属病院では認知症看護認定看護師の袴田良子氏・池本理恵氏にもご協力をいただきまして、マフを活用したケアの実践の取組みを行っていただいております。ご協力いただいている看護部および関係部署の皆様に深く感謝申し上げます。マフを活用したい方は、筆者らにご連絡いただければ幸いです。一歩の会制作のマフ浜松医科大学マフチーム8認知症マフを活用した身体拘束低減と認知症ケア質向上

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