School of Engineering, Hokkaido University 2021-202203│─あらためてノーベル化学賞受賞当時のお話から聞かせていただけますか?鈴木 スウェーデンの授賞式に出席して分かったことは、ノーベル賞というものは形式的にはノーベル財団がすべて計画して執り行っているけれど、実際はスウェーデンの国を挙げてのイベントなんですよね。国王様、王妃様、街の人たちも含めて全員で盛り上がる。こういう機会をいただけたことは僕にとって非常に名誉なこと。ありがたいと思っています。─マスコミからは「受賞前後でどのような心境の変化がありましたか?」と質問されていたようですが、本当のところはいかがですか?鈴木 何度も聞かれたけど、僕は「まったくない」が偽りのない本音なんだよ。ワイフにもマスコミの人が随分聞いていたみたいだけど、「うちの主人は全然変わっていません」と答えていた。ワイフが僕のことを一番よく分かっているから、本当にそのとおりだと思うね。実学のあるべき姿を実現した「クロスカップリング」─北海道大学で約35年にわたり教鞭をとっておられましたが、工学部の助手にはどのような経緯でなられたのでしょうか?鈴木 僕が初めて工学部に来たのは1961年。その頃は工学部合成化学工学科ができたばかりで、そこにいらした伊藤光臣教授が「鈴木君、こないか」と声をかけてくださった。僕はその前に北大理学研究科の化学専攻で博士の学位を取っていてね。あの頃は大学の職がそんなになかった時代なんだけども、幸い理学部に助手のポストがあって2年半勤めた。そうしたら伊藤先生から声がかかって、工学部合成化学工学科の有機合成化学講座の助教授になれた。あの頃、合成化学工学科の建物(別棟)は北大でも数少ない鉄筋3階建て。でも質はあまりよくなかったから海外のゲストが来ても案内するのがちょっと恥ずかしくてね。─理学部から工学部に移る時のお気持ちはいかがでしたか?鈴木 両方とも化学系だから場違いなところに行く感じはしなかったね。理学部での研究は、それが商売になるとかは関係なくて、「新しいものを見つける」というのが目的。一方、工学部や農学部は「実学」。この実学を重んじる伝統は、クラークさん以来の北大の特徴の一つで、工学部はまず「人の役に立つ」ということが第一条件。そこが理学部と工学部の大きな違いだと思いますよ。しかし工学部でも、物事の原理や根本的なことを大事にしないと伸びがないわね。僕が唯一誇れるのが、今回の受賞理由となった「クロスカップリング」は、100%北大でやったということ。他の誰もやっていない、我々が見つけた反応でできたことなんだよね。そういう意味ではとても理学的なものなんだけども、しかもその反応が実際の社会に役立っている。これが僕の本当に思う「実学」、工学のあるべき姿じゃないかな。─結果が出るまで相当根気がいる実験の日々だったそうですね。鈴木 それはそうだね。化合物の反応なんて目に見えるものじゃないから。化学の研究というのはそういうものだよ。─ともにクロスカップリング研究に取り組まれた宮浦憲夫先生から「先が見えづらい研究だからこそ、鈴木先生は周囲を巻き込んでの息抜きがお上手でした」と伺いました。鈴木 いやいや、そんなこともないけども。「酒の席が多かった」と卒業生が証言してたって?あれはね、学生に喜んでもらおうという気持ちもあったけれど、自分も喜んでたの(笑)。ジンギスカンパーティーは今もやってるの?あれは工学部に限らず夏になればどこでもやっていたね。▲パデュー大学で研究に没頭する鈴木先生(1964年)2010年、“道産子初のノーベル化学賞受賞”という輝かしい栄誉を地元北海道にもたらした鈴木章先生。北海道大学での日々、ほかでもない「工学」の魅力、未来のエンジニアたちへのメッセージを語ります。巻頭特集王室から国民まで国を挙げて盛り上がるノーベル賞授賞式200万人都市の真ん中で学部を横断した交流も充実鈴木 章 先生◎特別インタビューおおらかさを大切に学ぶは、まねる から。
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