School of Engineering, Hokkaido University 2021-2022│04芝生がキレイだからなおさらおいしく感じられる。北大の名物だね。─鈴木先生から見た北海道大学の魅力とは何でしょうか?鈴木 いろいろあるけど、一つは環境の良さ。こんな200万人規模の大都市の真ん中に、北大ほどの広大な敷地を持っている大学なんて日本中で他にないですよ。しかも、ダウンタウンや駅に歩いて10分15分で行ける立地環境も素晴らしい。それからもう一つは、北大の人は皆、人柄が非常にいい。おおらかであまりこせこせしていない。それに、北海道唯一の総合大学らしく、化学系の専門誌が理学部や工学部だけじゃなくて薬学部や農学部にもある。いろんな化学系の先生がいて、皆、仲がいい。同じ敷地内で学部を横断して付き合いができる点も良かったね。注意深い観察力を鍛えときには楽しい気分転換を─いいエンジニア、いい研究者になるためには、どういうことが必要ですか?鈴木 さっきも言った基礎を大事にすること。実験結果を注意深く観察すること。それに熱心でなければならない。中途半端にせず、研究する以上はきちんとやる。あとは、こういうことに加えてラッキーという要素もある。研究を続けていると、「いくら一生懸命やっても報われない」という場合がよくあるから。あんまり真面目に打ち込みすぎてノビちまう、それはやっぱりダメなんだね。ある意味ではおおらかさが必要。友達と酒を飲んだりして研究のことを忘れて、明日からまた違う視点で始める“気持ちの切り替え”が大事。これはどの分野の人にも通じることだね。─たくさんの学生たちを育ててきた鈴木先生は「今どきの若者像」をどうとらえていらっしゃいますか?鈴木 僕が大学の助手になったのは、1959年だったかな。当時、先輩からよく「おまえたちはアプレ・ゲール(戦後派)だ」と言われたもんです。ところが、彼らと僕らの年齢差は5歳や10歳で、日─鈴木先生は1963年に渡米し、パデュー大学の博士研究員になられました。33歳で、それが初めての海外体験だったとか。鈴木 僕の時代は日本が貧しくて、外国に行くのに非常にお金がかかった。北大の助教授だったから文部省(当時)が往復の旅費を出してくれたけど、ワイフと娘たちの分は自分で用立てた。今だと旅費もすごく安いでしょ?そういう意味では昔より今のほうが非常に行きやすい。ぜひ外国行きを勧めたいね。─向こうではどのような暮らしだったんですか?鈴木 アメリカはベトナム戦争以前だったから非常に景気が良くて余裕があって、外国人にも親切だった。僕が博士研究員でもらった給与は北大の4倍(笑)。食生活も日本ではビーフなんて食べられなかったけど、アメリカではタダみたいなもんだった。向こうでは車がないと生活していけないから、僕も現地で免許を取って乗っていた。そのガソリン代は日本の半額。その頃1ドルは360円時代で、日本に3分電話をかけるのにも数千円したから、正月くらいしかかけられなかった。▲合成化学工学科有機合成化学講座 ジンギスカンパーティ(1972年頃)▲北大工学部教授時代、学内で講義する 鈴木先生(1979年)北海道鵡川村(現むかわ町)で生まれる北海道大学理学部化学科 卒業北海道大学大学院理学研究科修士課程 修了北海道大学理学部助手北海道大学大学院理学研究科博士課程(化学専攻)修了北海道大学工学部合成化学工学科助教授米国・パデュー大学博士研究員(〜1965年)北海道大学工学部応用化学科教授英国・ウェールズ大学招へい教授北海道大学を停年退官、北海道大学名誉教授に。その後は、岡山理科大学、倉敷芸術科学大学の教授、米国・パデュー大学、台湾中央科学院・台湾国立大学の招へい教授を歴任2006年北海道大学大学院工学研究科(現工学研究院)特別招へい教授〔主な受賞・受章歴〕日本化学会賞(1989年)、有機合成化学特別賞(2004年)、日本学士院賞(2004年)、瑞宝中綬章(2005年)、スイスP.Karrer Gold Medal(2009年)、北海道新聞文化賞(2009年)、文化勲章(2010年)、ノーベル化学賞(2010年)、米国化学会H.C.Brown Award(2011年)▶英文による業績集(北大出版会刊)2004年本の長い歴史から見るとほとんど同じだよね。だから、「今どきの若者」と言われる20代と、60歳離れている僕の考えがそれほど大きく違うとは思わない。だけどね、もし若い人たちが外国に行くのを嫌がっているとしたら、それはよくないね。文化、議論、語学力、友達 実り多い海外経験を君たちも鈴木 章先生の略歴1930年1954年1956年1959年1960年1961年1963年1973年1988年1994年─そういう生活文化の違いも実際に海外に行ってみないとわからないことですね。鈴木 そう、日本だと以心伝心で大体感じが分かるところも、外国人には通じないから。徹底的に説明して議論することが必要になるし、ディスカッションをすると英語の勉強にもなる。その国の言葉を、考え方を知る、友達を作るとか、海外経験にはいろんなメリットがあるんです。自分で考える力を養いスケールの大きい人間に─海外経験以外に、学生時代にやっておいたほうがいいことはありますか?鈴木 本はたくさん読んだ方がいいね。もともと僕は北大の理学部で数学をやりたいと思っていたのが、フィーザー教授夫妻(米、ハーバード大)やブラウン先生(米、パデュー大)の本に出会って化学の道に変わった。若いうちから「何を読んだら将来の参考になるか」なんて考えていたら、スケールが小さくなってしまう。「数学が好き」とか「化学が好き」とかは大事だけど、どの専門に進むかはその領域が分かってから決めればいい。─「早く目標を決めなければ」と焦る必要はないでしょうか?鈴木 まったくない。先輩や他の人からいろいろ教えてもらって学ぶことが必要。「学ぶ」というのは「まねる」ということ。だからまずは、いろんな人と話をして、勉強していくうちに「これは面白いからもっとやってみよう」と自分で決めるようになる。希望や理想は人から教えてもらうのではなくて自分で考えるものだと僕は思うね。
元のページ ../index.html#5